大統領の関税引き上げ権限をめぐる対立法案がそれぞれ議会に提出

(米国)

ニューヨーク発

2019年01月30日

共和党のショーン・ダッフィ下院議員(ウィスコンシン州)は1月24日、大統領の関税引き上げ権限を強化する「米国相互通商法(the US Reciprocal Trade Act)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を議会に提出外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同法案は大統領が個別製品ごと(注)に、(1)他国の関税が米国の関税を大きく上回ると判断した場合、または(2)他国の非関税障壁が米国のそれを大きく上回ると判断した場合(非関税障壁に関税を併せた場合も対象)に、それら貿易障壁の撤廃に向けた交渉や関税引き上げの権限を大統領に付与するもの。

関税引き上げに関しては、(1)の場合は他国の関税率、(2)の場合は他国の非関税障壁が設けられている製品の実効関税率(関税と併せた場合は関税率も考慮)と同等レベルへの引上げを認める。(2)の実効関税率の水準の決定は、米通商代表部(USTR)が商務長官や財務長官などと協議した上で大統領に提言を行うとしているが、算出方法は示されていない。また、他国が対米関税を引き上げた場合には、その引き上げ分を上限に、さらに関税を課す権限を大統領に与えている。トランプ大統領は1月24日、ダッフィ下院議員と法案への支持を訴える記者会見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行った。

この法案は、18人の下院共和党議員が共同提出者になっている。しかし、上院財政委員長のチャック・グラスリー議員(共和党、アイオワ州)は「より大きな権限を大統領に与えることはない」として、支持しない考えを示している。また、下院歳入委員会の少数党筆頭委員のケビン・ブレイディ議員も法案に反対する動きをみせている(政治専門紙「ポリティコ」1月25日)。相互通商法では、大統領の関税引き上げを阻止するためには議会は3分の2の支持によって共同決議を可決する必要がある。

大統領権限への監視強化の法案も議会に提出

一方、逆に大統領の関税引き上げ権限を抑制する法案も議会に提出されている。ウォレン・デイビッドソン下院議員(共和党、オハイオ州)は1月23日、10人の下院共和党議員とともに「グローバル貿易説明責任法(Global Trade Accountability Act)」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを議会に再提出したと発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。この法案は、大統領による関税引き上げや数量規制などの導入に共同決議による議会承認を義務付けており、前回の115議会でも提出されていたが、共和党議会指導部の反対も受け審議が進まなかった。グラスリー議員は「安全保障上の措置のように偽装された関税により、同盟国を阻害すべきではない」として、1962年通商拡大法232条に基づく大統領権限の行使を審査する考えを示している(ブルームバーグ1月10日)。大統領権限による関税賦課の影響に対する懸念が共和党内でも広がる中、今後の議会での対応に注目が集まる。

(注)ダッフィ議員が本法案とともに公表した表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますには、日本の関税について、イチゴジャムやリンゴが米国の関税より高い品目として例示されている。

(鈴木敦)

(米国)

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