欧州化学産業界、EU単一市場の分断に警鐘鳴らす

(EU)

ブリュッセル発

2018年12月17日

欧州化学工業連盟(Cefic)は12月14日、英国のEU離脱(ブレグジット)などを念頭に「欧州は単一市場の分断に抗するべき」と題する声明を発表した。今後もEU単一市場の分断が続けば、「(欧州での)投資・雇用・成長に期待できない」と危機感を募らせた。

ブレグジット以降のREACH対応を懸念

Ceficは12月14日に閉幕した欧州理事会(EU首脳会議)で、EU単一市場の統合推進・深化について合意したことを歓迎したものの、「(欧州)化学産業はEU単一市場が完全に機能することを前提に欧州に投資を続けてきた」「しかし、EUとして単一市場の分断を喰い止められないならば、魅力は失われる」との見解を明らかにした。Ceficは、強固で安定した単一市場が企業戦略の大前提にあり、化学企業の事業展開を安定させ、国際競争力を維持するためには不可欠と指摘し、EUとして残された課題は多いとの認識を示した。

今回の欧州理事会では「(ユンケル委員長率いる)現在の欧州委員会の体制が任期を終えるまでに、積み残しとなっている単一市場をめぐる欧州委員会提案に合意するよう、欧州議会、EU理事会に求めること」が合意され、「厳しい国際情勢の中、EUに対外的に、強固な基盤と信頼性、より自主性を提供する単一市場を確実にするための必要な措置に、一層取り組むこと」が方針として確認されているが、これを受けた今回の欧州化学産業界の声明では、懸念は収まっていない。

Ceficは11月29日付で公表した意見書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の中で、「化学企業はEU単一市場の将来を懸念している」と明言した。Ceficはこの要因の1つにブレグジットを挙げ、特に英国のEU離脱と同時に「REACH規則PDFファイル(393KB)に基づいて、英国企業が行った約5,000件の化学物質登録が無効化される」事態を問題視している。ブレグジット以降もEU単一市場で当該化学物質を流通させるためには、EU27カ国あるいは欧州経済領域(EEA)に所在する法人経由で登録申請し直すなどの対応が必要になるとしており、これが「深刻な懸念の要因だ」と指摘、化学メーカーのみならず、化学品ユーザー産業にも不安が広がっているとしている。Ceficは、英国のEU離脱日以降も、英国の当局や企業が欧州化学品庁(ECHA)や欧州化学品規則(REACH)の枠組みにとどまり、EU・英国関係の分断を極小化することを求めていた(2018年10月19日記事参照)。

なおCeficは、ブレグジットに加えて、EUの政策決定メカニズムを見直し、EU加盟国の影響力を拡大させようとする動きについても、法的事業環境を不透明化するとして懸念を表明している。

(前田篤穂)

(EU)

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