工場運営における労務リスク軽減の方策をセミナーで解説

(インド)

チェンナイ発

2018年12月19日

インドでは、事業を展開する上での課題の1つとして、労務問題を挙げる企業が多い。南部タミル・ナドゥ州では9月から11月にかけて、日系を含む外資や地場大手企業の工場でストライキが複数起こっており、労働組合対応が進出日系企業の関心事となっている。こうした背景から、ジェトロは12月7日、「工場運営に関する労働法実務解説~労働組合対応を中心に~」をテーマとして、チェンナイ市内でセミナーを開催した。

セミナーでは、インドの法務・労務制度に詳しいフェア・コンサルティング・インディアの遠藤衛弁護士が登壇し、労働組合対応を中心に、労働者の権利、従業員辞職・解雇上の留意点など、事例を交えながら解説した。対応策や関連法規についての知識があれば、労務問題のリスクを軽減することにつながることを参加者に伝えた。

労働法の留意点を説明

遠藤弁護士はセミナーの冒頭で、インドにおける「労働三権」を日本の法制度と比較しながら紹介した。日本では団結権、団体行動権、団体交渉権は全て憲法上の権利として定められているが、「インドでは団結権は憲法、団体行動権は労働組合法、団体交渉権は産業紛争法がそれぞれ規定している」とし、実際に労働争議が起こった場合には、異なる根拠法を確認する必要があることを指摘した。各根拠法において、団体行動権は労働組合が地域の管轄当局に組合としての登録を行うことで、団体交渉権は会社が労働組合を承認することで、それぞれ保障される点については留意が必要だ。遠藤弁護士は「仮に会社が労働組合からストライキの通知を受けた場合には、交渉材料となる労働者の違法行為の有無を把握するとともに、雇用者として不当労働行為がなかったかどうかの確認も肝要だ」と述べた。

次に、2018年7月に改正された汚職防止法について、賄賂の支払い行為が新たに処罰の対象となったことを取り上げ、「今回の法改正により賄賂を支払った個人のみならず、その者が所属する会社および賄賂を支払うことに対して承諾を与えた取締役などについても処罰の対象に含まれる」と警鐘を鳴らした。

最後に、従業員辞職・解雇について、辞職・普通解雇・懲戒解雇の3つの方法があることを説明し、「インドの裁判では、労働者に有利な判決が下されることが多いため、解雇を行うことは実務上、難しい。辞職であれば、係争に持ち込まれるリスクが低く、会社の負担も小さく抑えられる」と解説した。

写真 セミナーで解説する遠藤弁護士(ジェトロ撮影)

セミナーで解説する遠藤弁護士(ジェトロ撮影)

参加者からは、法務・労務のコンプライアンスについて「日頃から現地スタッフと密にコミュニケーションを取る必要性を感じた」「業務委託している外部コンサルタントの起用方法や契約内容を見直したい」などの声が聞かれた。

(榎堀秀耶、奥野幸彦)

(インド)

ビジネス短信 5fff47ea066925aa