最高裁判決に反発、宗教団体の抗議活動で治安が不安定に

(パキスタン)

カラチ発

2018年11月20日

パキスタン最高裁判断は10月31日、イスラム教冒涜(ぼうとく)の罪で収監されていたキリスト教徒の女性アーシア・ビビさんに対し、逆転無罪の判決を下した。これに反発したイスラム宗教団体TLPが同日午後から国内各地で抗議活動を展開し、治安が不安定化した。抗議活動はいったん収まったものの、女性が出国している場合には再燃する可能性もある。TLPは全国規模の宗教団体で、政党としてシンド州議会で3議席を有する。

今回の事件の経緯は下記のとおり。

  • 2009年6月14日、アーシアさんがムスリム女性のために水を運んできたところ、アーシアさんがキリスト教徒であることを理由に、その水を飲まなかったとして口論に。その際にアーシアさんがイスラム教を冒涜する発言をしたとする疑いが発生。
  • 2010年11月、地方裁判所はアーシアさんに対し、死刑判決を言い渡した。
  • 2014年10月、高等裁判所はアーシアさんの主張を退け、地裁判決を支持。アーシアさんは同年11月、最高裁に上告。
  • 2015年7月、本件の審理期間中に死刑執行をしない決定がされ、以降、審理は進まなかった。
  • 2018年10月31日、最高裁により無罪判決。

TLPはこの最高裁判決を不服とし、各地で道路封鎖や座り込みなどの抗議活動を展開したが、政府は11月2日に対話の場を設け、TLPは以下5項目の合意をもって抗議活動を終了した。

  1. アーシアさんを出国制限リストに記載するため、政府は法的手続きを速やかに開始する。
  2. 今回の最高裁判決の見直しを求める法的手続きを取ることに、政府は反対しない。
  3. 抗議活動によって死者が出た場合、政府は容疑者に対して法的措置を取る。
  4. 10月30日以降、一連の抗議活動に起因して拘束されたTLPの関係者全員を釈放する。
  5. TLPが正当な理由なく、市民の感情を傷つけたり不便を生じさせたりしたなら、TLPは謝罪する。

合意によりTLPによる抗議活動は収まったものの、11月9日には関連事件をめぐってTLP以外のイスラム系宗教団体による抗議活動が発生した。

政府はアーシアさんが国内にとどまっていると明言しているが、既に国外へ逃れたとの当地報道もある。もしアーシアさんが出国している場合、TLPは抗議活動を再開し、他のイスラム系宗教団体も同調するとも報じられている。

パキスタンでの安全対策上、金曜日の午後は注意を要するが、アーシアさんの居所によっては、曜日にかかわらず大規模な抗議活動が行われる可能性がある。現在情勢は乱れてはいないものの、パキスタンへの渡航や滞在中の行動については慎重に検討することが望ましいだろう。

(久木治)

(パキスタン)

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