UPS会長が貿易問題に懸念を表明、アトランタのセミナーで講演

(米国)

アトランタ発

2018年10月24日

貿易をめぐる環境が激変する中、ジョージア州立大学国際問題評議会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの主催により、物流大手UPSのデイビッド・アブニー会長兼CEO(最高経営責任者)を招いて「グローバル貿易再起動」と題するセミナーが10月17日、ジョージア州アトランタで開催された。

セミナーは、ウィルソン・センター・カナダ研究所ディレクターのローラ・ドーソン博士がアブニー会長にインタビューする形式で進行した。

全米2位の物流企業でeコマースなど小売業者の顧客を多く持つUPSでは、「貨物22個につき1人の雇用が発生」するといい、アブニー会長は「貿易は雇用を生み出し、大企業から零細企業まで幅広く恩恵をもたらす」「貿易協定は完全ではないが、不確定要素を排除して零細企業の貿易参入を容易にする。消費者の95%は米国外におり、米国企業にとって自由貿易が重要であることを政府はよく認識すべきだ」と訴えた。

米国・カナダ間の政治経済専門家として知られるドーソン博士が、NAFTA(北米自由貿易協定)新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」やTPP(環太平洋パートナシップ)における米国の対応を厳しく非難すると、アブニー会長も「TPPは米国以外の11カ国が合意に達した。米国は後れを取っている」と同意した。

アブニー会長はさらに、「交通インフラの面で米国は諸外国に比べると優れている。輸送における5分の遅延が年間1億4,000万ドルのコストに相当すると試算されており、米国の交通インフラ面での優位性は、賃金格差による製造コスト高を相殺し得る。米国は他国に賃金引き上げを強いるよりも、全米高速道路の89%で発生している交通渋滞を解消すべく、インフラ整備に力を入れるべきだ」と主張した。

会場からも活発な質問が寄せられた。アブニー会長は、英国のEU離脱(ブレグジット)について「非常に懸念している」と述べ、米中貿易戦争については「知的財産など解決すべき課題はあるが、私の知る限り鉄鋼関係を除く何百人ものCEOは、関税が望ましい解決策だとは考えていない。大豆ではブラジルが漁夫の利を得るなど、米国産業・国民が代償を支払う結果になる」と答えた。

UPS、ジョージア州商務省、アトランタ国際空港、アメリカユダヤ人委員会が後援して行われた今回のセミナーには、カナダ総領事館関係者をはじめ150人近くが出席し、貿易問題に対する関心の高さをうかがわせた。

(ラマース直子)

(米国)

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