WTOが「世界貿易報告書2018」公表、デジタル化の影響分析

(WTO、世界)

国際経済課

2018年10月05日

WTOは10月3日、「世界貿易報告書(World Trade Report外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)2018」を公表した。WTOのロベルト・クープマン・チーフエコノミストはジュネーブで開かれたパブリック・フォーラムで、報告書における重要な調査結果として、デジタル技術が貿易コストをさらに削減し、特にサービス産業や途上国における貿易を増加させる可能性が高いと述べた。

写真 WTOパブリックフォーラムで、「世界貿易報告書」の発表の内容について説明するロベルト・クープマン・チーフエコノミスト(ジェトロ撮影)

デジタル化が貿易に与える影響については、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、3Dプリンター、ブロックチェーンと貿易コストの関係を論じている。特に、中小企業の成長という点では、ブロックチェーン技術は商取引の開始を容易にし、3Dプリンターは製造業への参入障壁を低下させると指摘した。そして、これらのデジタル技術は、世界の貿易量を2016年から2030年にかけて毎年2%程度増加させる効果があるとした。

報告書では、デジタル技術が商品の取引だけでなく、サービスの取引を促進する点も分析している。デジタル技術により、サービス利用者の拡大や個別の需要に応じた対応が容易になるなどの好影響が生まれ、世界貿易(物品およびサービス)に占めるサービス貿易のシェアは2016年の21%から2030年までに25%に拡大する可能性があると予測している。

一方で、デジタル技術が引き起こす主な課題として、市場の独占、プライバシーの喪失、デジタルデバイド(格差)、サイバーセキュリティーを指摘した。

デジタル技術と雇用の関係について、ロベルト・アゼベドWTO事務局長は、デジタル技術は経済に急速な構造変化をもたらす結果、雇用機会の創出と喪失の両面につながり得るため、その変化を正確に把握し、労働者の雇用に対する不安を払拭(ふっしょく)する必要があると述べた。また、雇用喪失の主因が貿易にあるという間違った解釈によって対策を誤り、世界貿易を窒息させるべきではないと述べ、今日の貿易制限的動きの背後にある懸念に耳を傾けるべきと警鐘を鳴らした。

(柏瀬あすか)

(WTO、世界)

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