電動車いすのウィル、米国発の世界戦略を強化

(米国)

サンフランシスコ発

2018年10月01日

シリコンバレーにも米国拠点を置く電動車いす開発・販売のウィル(WHILL、本社:神奈川県横浜市)が9月25日から28日にサンフランシスコで開催された米セールスフォース主催のイベント「ドリームフォース」に参加した。

同社製品の特徴は、屋内外両方の走行に対応したデザイン。オムニホイール(全方向タイヤ)が段差や悪路走行を可能にし、スムーズな小回りを実現する。2016年3月には米国食品医薬品局(FDA)の認可も取得。日本国外では米国を皮切りに、2018年4月にカナダ、7月に英国とイタリアでも販売を開始している。

同社設立は2012年。2013年には、日本の数十倍といわれる米国電動車いす市場や、良好な投資環境に期待しベイエリアに米国拠点(カリフォルニア州サンカルロス)を設立。米国で資金調達先を探す中で、米ベンチャーキャピタルの500スタートアップスが出資を決定。1バッチ数千社の応募から約30社しか選ばれない同社の研修プログラムにも参加した。最高経営責任者(CEO)の杉江理氏は2017年に「シリコンバレー・ビジネス・ジャーナル」紙の選ぶ「40歳以下の経営者40人」に日本人起業家で唯一選ばれるなど米国での注目も高まっている。

米国で車いすユーザーの参加を募り、2016年9月から数カ月にわたってFDA承認のモデルMでハイキングに行く無料キャンペーンを開催するなどユーザー調査も積極的に行う。また、映画「バットマンvsスーパーマン」(2016年)や米テレビ番組でも同社の車いすが使われている。

毎年ラスベガスで行われるコンシューマー・エレクトロニクス・ショー「CES」では、2018年にモデルCiを発表し「ベスト・オブ・イノベーション」を受賞しているほか、ビジネス誌「ファスト・カンパニー」が世界中から選ぶ「最も革新的な企業」で2018年のロボティクス部門5位にランクインしている。また、2016年には経済産業省によるスタートアップ育成支援プログラム「J-Startup」でも「J-Startup企業」約100社に選ばれた。

今後の北米での展望をシニア・マーケティング・マネジャーのジェフ・ヨシオカ氏に聞いたところ、「ブランド認知をより一層高め、より多くの人に当社の車いすに乗ってもらうことで、引き続き市場へ浸透させていきたい」と語った。

同社は9月17日、SBIインベストメント、エンデバー・キャタリストなどから4,500万ドルの資金調達を完了したと発表している。これにより、同社の資金調達総額は約8,000万ドルになる。

今回の調達資金をさらなる販売網拡大と、自立走行車いすの開発に活用する意向だ。自立走行車いすは、将来的に面積が広く混雑しやすい公共の場での活用を想定しており、同社は米国の航空会社・空港との提携も視野に入れている。

写真 公共での利用イメージ(ウィル提供)
写真 屋外利用の様子(ウィル提供)
写真 モデルCi(ウィル提供)
写真 2016年9月に行われたハイキングの様子(ウィル提供)

(田中三保子)

(米国)

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