シンガポール産業界には「貿易戦争に勝者なし」との見方も

(シンガポール)

シンガポール発

2018年09月28日

米国と中国が9月24日、相互に第3弾の追加関税を発動し、米中貿易摩擦が激化している。これに対し、シンガポール産業界からは国内およびアジア周辺国に及ぼす影響について、さまざまな見解が示されている。

シンガポール製造業への影響、現時点では限定的か

「ビジネス・タイムズ」紙(9月21日)では、金融機関や投資会社などのアナリストによるシンガポール企業への影響に関する見方が掲載された。とりわけ、エレクトロニクス分野では、サプライチェーン上、中国との結び付きが深い企業で大きな影響を受けやすい。マレーシアのリサーチ会社CGS-CIMBのアナリストによれば、電子機器受託製造のベンチャー・コーポレーションでは、同社の中国生産拠点での製造を見直すに当たって、マレーシア拠点に十分な生産余力があるという。ただし、基板の部品実装などの単純工程でない限り、移管の対応には一定程度の時間を要するとした。

他方、精密部品メーカーのメムテック・インターナショナルは、エレクトロニクス、自動車、医療機器向けハイテク部品を広東省東莞市、江蘇省崑山市、南通市の中国工場でのみ生産している。同社執行役員のチュアン・ツァモン氏は、貿易摩擦の影響による直接的な影響はまだみられないという。同氏は、製品供給先の自動車産業が中国国内およびアジア周辺国を主要販路としていることを理由の1つに挙げた。

摩擦長期化に備えるべきとの声の一方で楽観論も

また、9月24日付の同紙では、シンガポール産業界のコメントをまとめ、「貿易戦争に勝者なし」という特集記事を掲載した。主な見方として、「貿易戦争の長期化に備えるべき」〔シンガポール・ビジネス連盟(SBF)のホー・メンキットCEO)〕、「アジアでは既に消費者のセンチメントに影響がみられる」(ウエストパックバンキングのマイケル・コレアGM)、「中国がくしゃみをすれば周辺国も風邪をひく」(ビストラ・シンガポールのクリス・バートンMD)など影響を懸念する声が紹介された。

一方で、「アジアの成長力は底堅い」(Qi グループオブカンパニーのザヘール・マーチャント取締役)などシンガポールおよび周辺国への影響は限定的とする見方や「アジア諸国は中国からの生産移管の受け皿としてメリットを受ける可能性がある」(ピープルワールドワイド・コンサルティングのデビット・レオンMD)とするものもあった。シンガポール経済にとっては、「貿易や投資が多様化するきっかけとなり、2国間、多国間の自由貿易協定のネットワークを形成するシンガポールは便益を受ける」(アルファ7のリネッテ・シーアCEO)とする見方もある。

(藤江秀樹)

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