欧州委、通商防衛措置に関する年次報告書を発表

(EU)

ブリュッセル発

2018年08月03日

欧州委員会は7月31日、通商防衛措置に関する年次報告書を発表した。同報告書は、2017年のEUによるアンチダンピング(AD)措置や反補助金措置など通商防衛措置の実施状況を解説したものだ。

新規調査の約半数を中国が占める

同報告書によると、EUは2017年末の段階で、ダンピングに対する確定措置97件、補助金に対する相殺措置13件を実施していた。また、迂回防止(注1)を目的とする拡大適用は、AD措置が29件、反補助金措置が3件となった。特に、AD措置の拡大適用は、ほとんどが中国産製品の迂回輸出対策を目的とするものだった。

2017年に新規に開始されたADおよび反補助金措置の調査件数は11件となり、そのうち5件は化学品またはその関連分野だった。国別では、中国が5件と最も多く、ロシアやブラジル、トルコなど6カ国が1件ずつだった。さらに、2017年を通じて、28の既存の措置について延長の要否に関する見直し作業が開始された。これらを含め、2017年末の時点で調査中の案件の合計は46件となり、欧州委は、新規案件に加えて見直し案件が増加傾向にある点に言及した。

その一方、ADおよび反補助金措置の対象となる輸入がEUの全輸入に占める割合は、0.31%にとどまった。欧州委は「EUは、域外の不公正な貿易慣行から域内企業を守りつつも、市場を開いている」と指摘。さらに、2017年12月に発効した、市場経済に対する歪曲(わいきょく)の有無をAD措置適用の判断として加える新たなAD規則(2017年12月25日記事参照)や、2018年6月7日に公布されたレッサー・デューティー・ルール(注2)の見直しなどを含む通商防衛措置の近代化に触れて、「EUには、世界経済のゆがみに対峙(たいじ)するに十分に堅固な通商防衛手段がある」と強調した。

同報告書は次のリンクPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を参照。また、詳細は同報告書に関する職員作業文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に記載されている。

(注1)「迂回」とは、AD課税の対象となっている企業が行う課税逃れのための行為。かかる行為を簡易な調査に基づきAD課税の対象とするのが「迂回防止措置」。

(注2)ダンピング・マージンよりも、損害救済に必要なマージンが低い場合、後者を限度にAD税を課す制度。

(村岡有)

(EU)

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