EU、市場歪曲を判断基準に加える改正AD規則を発効-初回「カントリー・リポート」で中国を取り上げる-

(EU、中国)

ブリュッセル発

2017年12月25日

欧州委員会は12月20日、国家補助などを通じた市場経済に対する歪曲(わいきょく)の有無をアンチダンピング(AD)措置適用の判断基準として加える、新たなAD規則が発効したと発表した。また、欧州委はEU域外国による市場歪曲実態を調査・分析した作業報告書「カントリー・リポート」を発行し、初回対象国として中国を取り上げた。欧州委はこの「カントリー・リポート」がEU域内産業にとってAD調査要請の根拠になるとの考えを示唆している。

中国が国家として市場歪曲を誘発していると指摘

欧州委は12月20日、これまでのAD規則を改正し、国家補助などを通じた市場歪曲の実態を考慮するAD認定基準を採用した、新たなAD規則が発効したと発表した。また、これに併せて公表した初めての「カントリー・リポート(国家による市場歪曲の実態を分析した欧州委としての国別・作業報告書)」で中国を取り上げ、同国が国家として市場歪曲を誘発しているとの認識を示した。

今回、発効した改正AD規則はEUとして1年以上かけて協議してきたものだ(2016年7月27日記事参照)。これまでのAD規則は「内外価格差」をダンピング認定の主な要素としてきたが、改正規則では「国家介入による市場経済の歪曲」の有無を判断基準として加えている。鉄鋼などの欧州産業界には、経営効率の悪い国営企業に対して、それらの延命を図るために政府が補助金給付などの形態で国家補助を行っていることが、市場実勢を考慮しない「過剰生産能力」につながり、国外市場への低価格輸出を引き起こしているとの警戒感が根強い(2015年11月2日記事参照)。特に、2016年12月にWTO加盟から15年を経過した中国については、「非市場経済国」として扱うことが難しくなったこと(2015年11月10日記事参照)もあり、国際法上の要請にも従いつつ、効果的なAD措置の検討を急いできた経緯がある。

市場歪曲からEU域内産業を守ることが目的

欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長は「われわれはオープン、公正かつルールに基づく貿易を守る第一線に身を置く」と述べつつも、保護主義的な意図はないことも強調した。また、欧州委のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は「EUは産業・企業に開かれた存在だが、同時に不公正な輸入などとの競争、特に国家介入によって市場経済が著しく歪曲されている国との競争からEU域内産業を守ることもわれわれの責務だ」と語った。

ただし、今後の新たなAD規則の運用には注意も必要で、欧州委は「新たなADの手法はその他のWTO加盟国にも適用される」としている。輸出価格と国内価格・コストを比較する従来のAD認定基準から、「国家介入による市場経済の歪曲」の立証という、相対的に曖昧なAD認定基準が加わることから、恣意(しい)的な運用の可能性も否定できない。

「カントリー・リポート」がAD調査要請の根拠に

また欧州委は、新たなAD規則の導入に伴い、EU域外国による市場歪曲の実態を調査・分析した作業報告書「カントリー・リポート」を発行する。これまでの単純な内外価格差の比較だけではなく、各国のビジネス環境、特に市場経済や企業経営への国家の関与の程度を重視する姿勢の表れとみられる。欧州委は今回が初回となる「カントリー・リポート」を発行し、中国を対象国として取り上げた。欧州委は中国を選択した理由として、「中国からの輸入に対するAD上の懸念が根強いため」と説明している。

「カントリー・リポート」では経済構造に始まり、国営企業経営の実態、金融市場や政府調達の状況、投資スクリーニングシステム(外国資本の参入規制)の実情、そして、「土地」「エネルギー」「資本(設備)」「原材料」「人員」などの生産プロセスで投入される各要素について、欧州委としての調査・分析の結果をまとめる。また、今回発行された「カントリー・リポート(中国編)」では、「鉄鋼」「アルミニウム」「化学」「セラミック」の4分野が重点調査産業として報告されている。

この「カントリー・リポート」は、欧州委のAD認定に大きな影響を与えるとみられ、対象国に対する警告的な意味を示唆するものといえる。具体的に、欧州委はダンピング被害に直面したEU域内産業がAD調査を要請する場合に、「カントリー・リポート」を参照することを想定している。

なお、欧州委は次回報告で、「ロシア」を取り上げるとしている。

(前田篤穂)

(EU、中国)

ビジネス短信 f313f4f7cab9dcf1