米中貿易摩擦を懸念、輸出増に期待も

(マレーシア)

クアラルンプール発

2018年07月19日

激化する米中貿易摩擦の影響について、マレーシアでは世界経済の鈍化を懸念する声がある一方、米中両国が課税対象品目の輸入先を変更することで輸出拡大のチャンスが生まれるとの見方も出ている。

リム・グアン・エン財務相は7月12日、来年度予算の公聴会において、今後のマレーシア経済における短期的な外的リスク要因として米中間で激化する貿易戦争を挙げた。貿易戦争が世界経済の停滞を招くとして、マレーシアの主要輸出産業である電気・電子を中心に両国のサプライチェーンの一端を担う国内企業への影響を懸念する。

地場銀行のシンクタンク、アムバンク・リサーチのアンソニー・ダス首席エコノミストは、貿易戦争がエスカレートした場合、「マレーシア株式市場からの資金流出、リンギ安圧力が強まるなど金融市場に打撃を与える」と指摘する(「べリタ・ハリアン」紙7月8日)。

パーム油やゴム手袋の需要増見込む

他方で、米中の関税賦課対象品目の代替品として、マレーシアの主要輸出品である電気・電子製品、パーム油やゴム製品への需要が高まるとの期待もある。

テレサ・コック第一次産業相は、大豆油の代替として中国向けのパーム油に輸出拡大の機会があるとしている(「マレーメール」紙7月3日)。というのも中国は米国から年間約140億ドル相当の大豆を輸入しているが、25%の関税が賦課される大豆は主に食用油の原料としての需要が高いため、パーム油が代替品として輸入されればマレーシアにとって大きな輸出チャンスになるというわけだ。

また、7月10日に米国が公表した追加関税品目リスト案に含まれている医療用手袋も、米国向け輸出増が期待される。米国では世界の医療用手袋の約3割が消費されているが、7割は中国製のビニール手袋が占める。同リスト案が確定すれば10%の関税が賦課されるため、マレーシア製のゴム手袋の需要増が見込まれるとの予測だ(「ザ・スター」紙7月12日)。

米中貿易摩擦の激化が世界経済に与える影響の余波を警戒しつつも、両国への輸出増やマレーシアへの製造拠点の移管や拡張といった対内投資の拡大などを期待する声も大きい。

(田中麻理)

(マレーシア)

ビジネス短信 d65f9d343df8cee9