米中貿易摩擦の激化、シンガポール閣僚が相次ぎ懸念表明

(シンガポール、米国、中国)

シンガポール発

2018年07月12日

シンガポールの閣僚から、米中貿易摩擦が激化する中、国内経済に及ぼす影響について相次いで懸念する発言がされている。米国と中国は7月6日、互いに相手国からの340億ドル相当の輸入品に追加関税を賦課した。さらに、10日には米国が中国から2,000億ドル相当の輸入品に10%の関税を上乗せする追加制裁の手続き開始を表明し、米中貿易紛争のリスクが高まっている。

追加制裁を繰り返す貿易戦争へのエスカレートを警戒

チャン・チュンシン貿易産業相は7月9日の国会答弁で、米中貿易摩擦による国内経済への直接的、間接的な影響について述べた。同相によると、鉄鋼など米国が国を特定せずに実施した関税賦課による直接的な影響については、シンガポールの米国への輸出に占める対象品目は0.1%程度のため、大きな影響はないとした。また、間接的な影響については、シンガポールが世界のサプライチェーンに組み込まれていることによる波及効果を指摘。同相は「中国から米国へ輸出される製品の中間財を製造しているシンガポール企業は、需要減少に直面するかもしれない」と見通しを示した。

ただし、チャン貿易産業相が最も懸念を示すのは、貿易紛争がエスカレートし、経済大国間の制裁措置が悪循環に陥ることによる影響だ。同相は「仮に制裁措置が世界のビジネスや消費者のマインドを急激に、かつ継続的に冷やし、世界経済が滞るような状況まで至った場合は、マクロ環境が根本的に変化する」と述べた。このようなシナリオになった場合、同相は「貿易が混乱するだけでなく、世界の消費や投資にも影響を与え、シンガポールのオープンな経済に多大な影響があり得るだろう」と警鐘を鳴らした。

バリューチェーンの一端を担うシンガポールに余波も

ヘン・スウィーキート財務相も7月8日、「貿易戦争を始めた当時国でさえも、その恩恵を得ることはない」と指摘した。また、「国際経済は現在、前回の深刻な国際経済危機からの回復のデリケートな段階にある」とし、「金融市場が事態の行方を、懸念を持って注視している」と述べた(「ストレーツ・タイムズ」紙7月9日)。

また、通貨金融庁(MAS)のラビ・メノン長官は7月4日、MAS年次報告の発表会見で、2018年の国内経済予測の前提条件は変わらないものの、国際貿易紛争の余波を注視する必要性を強調した。政府はシンガポール経済が2018年に前年比2.5~3.5%成長すると見込んでいるが、同長官はこの余波に関して「シンガポールが域内のエレクトロニクス生産のバリューチェーンの中枢を担っているだけなく、航空・海上輸送のハブであり、さらに金融仲介サービスを担っている」と指摘した。MASの分析によると、米中間の2国間貿易は間接的にシンガポールのGDPに約1.1%、米国・EU間の貿易は約0.5%、北米自由貿易協定(NAFTA)の貿易は約0.6%寄与している。

(小島英太郎)

(シンガポール、米国、中国)

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