サムスン電子がトロントにもAIセンターを設立

(カナダ)

トロント発

2018年06月01日

サムスン・リサーチ・アメリカ(SRA)は5月24日、トロントへの最先端の人工知能(AI)センター設立を正式に発表した。サムスン電子は、英国(ケンブリッジ、5月22日)とロシア(モスクワ、5月29日)にもAIセンターの設立を発表しており、韓国(ソウル、2017年11月設立)と米国(シリコンバレー、2018年1月設立)を合わせて世界5カ国にAIセンターを有することになり、トロントがその一角を担う(2018年5月28日記事参照)。

トロント市とその周辺地域を含むトロント大都市圏は、マシンラーニング(機械学習)研究の中心地で世界最先端のAI研究ハブの1つであり、トロントAIセンターは、シリコンバレーAIセンターと連携しながら、家電製品から自動車まで、さまざまな機器へのAI導入を加速させる。

MaRSにAIの研究開発拠点が集積

サムスンAIセンターが開設されたトロントのダウンタウンにあるMaRSディスカバリー・ディストリクト(以下、MaRS)は、複数の病院・大学・行政機関に囲まれた環境において、革新的技術の研究開発を支援するイノベーションハブで、スタートアップ支援やスケールアップ支援を行っている。

また、フェイスブック、グーグル、ペイパルなど多国籍企業もMaRSに入居しており、ベンチャー企業との交流がしやすい環境となっている。現在、日系企業ではNTTデータや富士通がMaRSとパートナーシップを結んでいる。さらに、MaRSには、ベクター・インスティテュートというAI専門の研究機関のベクター研究所が2017年3月に設立されており、トロント大学をはじめとするアカデミアとスタートアップ、産業を結ぶことで、AIの研究から実用化、商業化を促進している。

サムスンAIセンターの開所式には、フランソワ・フィリップ・シャンパーニュ国際貿易相が出席。また、ナブディープ・シン・べインズ・イノベーション・科学・経済開発相はツイッターで、「サムスンは、AI分野におけるカナダのリーダーシップを認識しており、世界的イノベーション企業によってカナダの魅力がまた証明された」と絶賛している。

実際、世界的にAIが推進される中、カナダでの研究開発が基盤となっているのは、ジェフリー・ヒントン教授(トロント大学)、ヨシュア・ベンジオ教授(モントリオール大学)、リチャード・サットン教授(アルバータ大学)といったこの分野での先駆者の拠点となっているという背景によるところがある。ほかにも、優れた工業系大学として知られるウォータールー大学が、IP(知的財産権)を考案者に独占させたり、学生が無料で利用できるインキュベーション施設を持つなど、イノベーションを促進する環境が充実している点も注目に値する。

(江崎江里子)

(カナダ)

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