自動車業界や主要ビジネス団体は232条調査の発動を批判

(米国)

ニューヨーク発

2018年05月25日

商務省が5月23日に発動した1962年通商拡大法232条(以下、232条)に基づく自動車と同部品の輸入に関する安全保障調査(2018年5月25日記事参照)に対して、米国の自動車業界や主要ビジネス団体は批判の声を上げている。

米国自動車工業会(AAM)は「自動車輸入が、米国の安全保障に対する危険をもたらすものではないと確信している」と、232条の調査発動を批判した。

米国自動車部品工業会(MEMA)も、グローバルなサプライチェーンとのつながりは米国の自動車部品製造業の競争力を維持する上で不可欠として、「232条に基づく自動車部品や自動車に対する関税賦課は米国人の雇用や安全保障を危険にさらす」と警鐘を鳴らした。MEMAによれば、自動車部品の製造業者は87万1,000人を雇用しており、雇用者数は過去5年で19%増加している。

そのほか、外資系自動車メーカーが加盟する世界自動車メーカー協会や外資系自動車ブランドのディーラー団体である米国国際自動車ディーラー協会(AIADA)も調査発動を批判する声明を出している。世界自動車メーカー協会のジョン・ボゼラ最高経営責任者(CEO)は「(関税賦課は)貿易相手国からの報復を招く」との懸念を示した(注1)。

他方、米自動車大手3社(ビッグスリー、注2)が組織する自動車政策会議(AAPC)のマット・ブラント会長は「このプロセスを入念に見守る。われわれの考え方を政権と共有し、外国市場を米国製品に開放して国際貿易の土俵をより平等なものにしていくために、引き続き共に取り組む」と中立的な立場を取った。

米国商工会議所「関税賦課を貿易交渉の交渉材料にすることが目的」

米国商工会議所や全米製造業者協会(NAM)などの米国の主要ビジネス団体も調査発動を批判している。

米国商工会議所のトーマス・ドナヒュー会頭は「これは安全保障の問題ではない。トランプ政権は、メキシコ、カナダ、日本、EU、韓国との貿易交渉の材料として、関税賦課の脅しを用いることが今回の措置の真の目的であることを示唆している。米国の自動車輸入はほぼ全てが、米国に最も近いパートナーであるこれら同盟国からの輸入だ。これらの国またはこれらの国からの輸入は、いかなるかたちにおいてもわれわれの安全保障を脅かすものではない」と述べた。

2017年の米国の乗用車の国別輸入額をみると、カナダ、日本、メキシコ、ドイツ、韓国の輸入額が大きい(表1参照)。一方、自動車部品では、中国がメキシコに次ぐ2位の輸入国になっている(表2参照)。

表1 2017年の米国の乗用車輸入額の国別上位5カ国
表2 2017年の米国の自動車部品輸入額の国別上位5カ国

なお、米国労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)や全米自動車労働組合(UAW)などの主要労組団体は、2018年5月24日時点でまだ声明を出していない。

(注1)米国が232条に基づき、鉄鋼とアルミニウムの輸入に賦課している追加関税に関しては、日本、EU、ロシア、トルコが、WTOセーフガード協定の規定に基づき、米国からの輸入に対する関税を引き上げる通知をWTOに行っている。また、中国とインドはWTOの紛争解決手続きに基づく協議を米国に要請している。

(注2)ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)の3社。

(鈴木敦)

(米国)

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