デジタル転換戦略「E-デジタル」を制定

(ブラジル)

サンパウロ発

2018年04月06日

テーメル大統領は3月21日、ブラジルのデジタル転換戦略(「E-デジタル」)を定めた法令に署名した。同法令は向こう4年間に、デジタル化技術を最大限に活用してブラジルの生産性、国際競争力、収入・雇用水準の向上を実現して、全ての人に公正で豊かな社会の構築を目指すものだ。

経済分野のICT利用を促進

同法令では、各経済分野における新しい情報通信技術(ICT)の利用を促進するためのガイドラインと行動計画を定めている。

E-デジタルの策定は、科学技術イノベーション通信省(MCTIC)による調整の下、省間作業グループが生産部門、科学アカデミー、市民団体の参加を得ながら行われ、2017年9月に公開ヒアリングを経て完了した。その上で、ブラジル連邦政府の政策決定を行う経済社会開発審議会(CDES)を通じて署名・制定のプロセスが進められた。

E-デジタルの詳細「デジタル移行のためのブラジル戦略」は、MCTICのウェブサイトPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)に公開されている。

同文書によると、E-デジタルの概念は、世界経済フォーラム(WEF)、G20、OECDなどの国際機関の議題に浸透したもの。世界経済フォーラムが算出したブラジルのグローバル競争力指数(GCI)は137カ国中80位にとどまっているが、逆にこのことはデジタル化によるGCIの向上の潜在力があるとしている。同報告書ではまた、2016年におけるブラジルの「デジタル経済」はGDPの2割程度であることと、今後のデジタル戦略の実施により2021年までにGDPを5.7%増加させる可能性があるという民間企業の試算を紹介している。

E-デジタルはブラジル政府の転換(電子政府・デジタル公共サービス化、透明性向上、政府データ公開)と経済の転換〔データ駆動型経済、デバイス接続世界:デジタルプラットフォーマーとの協業、モノのインターネット(IoT)技術利用による新事業モデル創出〕の双方を目指すもの。

その達成手段として、(1)情報通信インフラ・アクセス、(2)研究開発イノベーション、(3)デジタル環境への信頼、(4)教育と職業訓練、(5)国際的課題、のテーマに沿って計100件の行動計画を策定している。行動計画の事例は以下のとおり。

(1)データ駆動型経済:a.データセンターの国内誘致、b.政府の公開データ政策を改善、行政でのクラウドコンピューティング利用促進、c.公的機関と民間企業がビッグデータや人工知能の採用を進める。

(2)さまざまなデバイスがネットにつながる社会への対応:政府はE-デジタル制定に先立ち、2017年5月にブラジル初の戦略防衛通信衛星(SGDC)を静止軌道に乗せたほか、MCTICがブラジル経済社会開発銀行(BNDES)と連携して「モノのインターネット国家計画」を策定している。前者は全国で通信アクセスのない学校、病院などの遠隔地施設のブロードバンド接続を目的とし、後者はスマートシティー、医療、農業ビジネス、工業の4分野を優先課題にしたモノのインターネット開発を目的とした政策を策定している。E-デジタル政策では上記計画を承認し、4分野のデバイス接続社会を実現に最優先で取り組むとしている。インダストリー4.0については国内製造業による採用と生産ラインの適用を促す政策を導入して、製造業のみならず農業、サービスへの導入も進める。

(3)研究開発:ブラジルの研究開発投資額はGDP比1.29%となっている。これに対し。欧州は平均で1.95%、OECD諸国平均で2.39%に達するなど大きな差がある。この現状を踏まえ、ブラジルでは資金調達の拡大に取り組むと同時に、あらゆる業界で使用できる「有効化技術」の研究開発投資を集中する。主な研究開発支援分野としてはセンサー、高速ネットワーク、アプリ・ソフトウエア、データ収集処理(ビッグデータ)、人工知能。

(4)プライバシーとセキュリティー:ブラジルでは整備が遅れている個人データの保護に関する法律の採択、この基準に基づく義務を監督する国家権限の確立、プライバシーとセキュリティーに重点を置いた技術基準の採用、国家のサイバーセキュリティー政策の施行、デジタル環境下の新たな研究ツールと法的枠組みの統合、サイバーセキュリティーの脅威を予防・防衛する国家計画の実施など。

(大久保敦)

(ブラジル)

ビジネス短信 ad2ddc3034915a79