新就労ビザ「TSSビザ」への完全移行が開始

(オーストラリア)

シドニー発

2018年04月18日

オーストラリア政府は3月18日、長期就労ビザ(サブクラス457ビザ)を廃止し、新たにテンポラリー・スキル・ショーテッジ・ビザ(TSSビザ)を導入した(TSSビザの概要は添付資料参照)。

長期就労ビザは廃止

長期就労ビザ(サブクラス457ビザ)は、「オーストラリア人の雇用と価値観を最優先する」との観点から2017年4月に廃止を発表し、1年間の猶予期間を通じ、段階的見直しを経た上で、今回の完全移行へと至った(主な変更点は添付資料参照)。

日系企業への影響は想定より縮小も懸念残る

2017年4月の発表当初、ビザ制度の変更および発給要件の厳格化は、オーストラリア進出外国企業(日系企業を含む)に多大な影響を及ぼす可能性があると懸念された。例えば、日系企業の駐在員の多くが選択している最高経営責任者(CEO)や業務執行役員(MD)の職種は短期熟練職業リスト(STSOL、有効期限2年)に分類され、追加要件(Caveats)も厳しい内容で、英語テストIELTSも必須となるなどが想定されていた。

その後、日本側は官民を挙げて連邦政府に対する見直しを日豪経済連携協定(EPA)の条項を踏まえ要請した。その結果、今回のTSSビザ(4月以降の期中見直しを含む)においては、これらの職種は中長期戦略技能リスト(MLTSSL)に分類(ビザの有効期間が旧ビザと同じく4年間)へと変更された。Caveatsも、当初の「年間売上高が100万オーストラリア・ドル(約8,300万円、豪ドル、1豪ドル=約83円)未満、スタッフが5人未満、年間給与が9万豪ドル未満の場合はビザを発給しない」という条件から、日本などの経済連携協定(EPA)・自由貿易協定(FTA)締結国を対象から外した「EPAなどの締結国の駐在員を除き、年間給与が18万豪ドル以下の場合はビザを発給しない」に変更されるなど、ビザ発給要件が大幅に緩和された。さらには、IELTSの免除要件も復活するなど、日系企業への影響は当初懸念されたよりも縮小した。

一方、職業リスト(CSOL)から一部職種が削減されたことや、犯罪経歴証明書の提出義務(認定スポンサーによる免除要件あり)が加わったことなど、依然として懸念要素が残る。

全豪日本商工会議所連合会(FJCCI)は、今回の変更がオーストラリアでの事業活動に影響を及ぼしている事案があるか、2018年3月にあらためて会員企業から意見を募集した。

ビザ制度変更を懸念する日系企業が増加

ジェトロが実施した「2017年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」の項目のうち、オーストラリアにおける「投資環境上のメリットとリスク」という回答結果(複数回答可)をみると、「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」について、2016年度の17.0%から2017年度には38.6%と大きく上昇している。ビザの制度の変更について、在オーストラリア日系企業による懸念が反映されたといえる。

現地のビザ問題に詳しい会計事務所アーンスト&ヤングの篠崎純也ディレクターは、「実際のビザ認証に当たっては、公開されているビザ申請条件に加え、審査当局の裁量により決定される部分もある」と話す。また、「TSSビザの職業リストは半年ごとに見直される予定で、ビザ制度自体も短期間で変更される可能性もあるため、最新の情報を正確に理解する必要がある」とのことだ。

(藤原琢也)

(オーストラリア)

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