ベンガル―ルで日印ベンチャーキャピタル交流会を開催-日本市場をインドベンチャーキャピタルに紹介-

(インド)

ベンガルール発

2018年03月30日

ジェトロは3月8日、インド南部カルナタカ州の州都ベンガルールで日印ベンチャーキャピタル(VC)交流会を開催した。この交流会の狙いは、インドのVCに日本の有望なスタートアップ企業やエコシステムを紹介し、日本への投資を促進させることだ。参加したインドのVCからは「日系VCとの協業を強く望む」などの声が聞かれた。

デジタル技術分野におけるビジネスチャンス

各国のベンチャーキャピタル(VC)が自国のスタートアップ企業に投資をすることはもはや通例となっているが、近年はグローバルで有望なスタートアップ企業への投資も加速している。日本ベンチャーキャピタル協会理事を務める、伊藤忠テクノロジーベンチャーズの中野慎三代表取締役は、インドのベンチャーキャピタルを前に講演し、「日系のVCが投資した金額は2012年の6億3,400万ドルから、2016年には21億6,000万ドルに増え、過去4年間で約3.5倍となる急激な伸びをみせた」とした上で、その理由として「アベノミクスの成長戦略により、日系スタートアップ企業への投資が盛んとなった」と語った。各スタートアップ企業の平均資金調達額も増加傾向にあり、2012年から4年間で約2.5倍になった。中でも、ヘルスケア関連のスタートアップ企業への投資が増えている。そのほか、フィンテック、ロボティクス、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)分野におけるスタートアップ企業への投資が伸びているため、こうした分野を得意とするインドVCにとって、有望な分野と考えられている。

写真 伊藤忠テクノロジーベンチャーズ代表取締役で、日本ベンチャーキャピタル協会理事の中野慎三氏(ジェトロ撮影)

新技術分野のB2B系スタートアップ企業が増加傾向

マイクロソフト・ベンチャーズのラビ・ナラヤン・グローバル部長によると、インドには5,000社を超えるスタートアップ企業があるという。これは、米国、イスラエル、英国に次ぐ世界で4位の規模だ。インドでは、2006年に電子商取引(eコマース)分野におけるB2C系のスタートアップ企業が多く誕生した。だがその後、徐々にAIや複合現実(MR)分野であるB2B系のスタートアップ企業が増加傾向にあり、2016年には全体の35%を占めるに至った。2017年には、50%超までシェアを拡大する見込みだ。今後、eコマース分野の後に続く投資分野のトレンドとして、フィンテックやヘルスケア分野への投資が注目されている。

また、2017年のインドは高額紙幣の廃止や物品・サービス税(GST)の導入により少なからず景気は低迷したが、その間も1,000社を超えるスタートアップ企業が誕生した。スタートアップ企業の大半が大都市周辺で生まれているが、その中でもベンガルールは、優秀な人材が輩出する教育機関や研究開発拠点が設けられ、イノベーションハブが既に形成されている。ラビ・ナラヤン氏は「多くのグローバル企業がインドのスタートアップ企業と協業し、イノベーション創出に取り組んでいる」と紹介した。

マイクロソフト・ベンチャーズのグローバル部長のラビ・ナラヤン氏(ジェトロ撮影)

インドVCにとって日本はIPOを達成しやすい国

インキュベイト・ファンド・インディアの村上矢(むらかみなお)代表パートナーは、「ゲームやモバイルコンテンツの開発と運営において、日系スタートアップ企業は世界でトップレベルにあり、ノウハウや知見の習得という意味でも、これらのスタートアップへの投資はインドVCにとって魅力的だろう」と説明。さらに、インドでは有望なスタートアップ企業が多くの資金を調達しても利益が出なければ株式公開(IPO)することはできない点と比較して、「日本は世界的にみてもIPOを達成するための条件が比較的に低い国であり、投資リターンの確保という意味でも、インドVCにとっては日系スタートアップ企業への投資はメリットがあるのではないか」と話した。日系スタートアップ企業も巨大なインド市場を攻略するため、インドVCからの投資を模索している現実があり、「今後、日印双方のスタートアップエコシステムが、ベンチャー投資というかたちでつながっていくといいと考えている」と結んだ。

インキュベイト・ファンド・インディア代表パートナーの村上矢氏 (ジェトロ撮影)

本交流会には、有望な日系スタートアップ企業や日本のスタートアップエコシステムに関心のあるインドVCが10社ほど参加した。出席したインドVCから「日系VCと連携し、技術移転を可能とするインキュベーションファンドを設立したい」「日本のスタートアップエコシステムに関する概況を知るため、日系VCとの協業を望む」「継続的に交流する場を望む」などのコメントがあった。本交流会は、インドVCに対する日本の有望なスタートアップ企業の紹介を通じて、日本への投資を促進する絶好の機会となった。

写真 日印VC交流会の模様(ジェトロ撮影)

(土田葉)

(インド)

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