インフラ整備と新たな物流網の拡大-インドの投資環境の現状と課題(3)-

(インド)

アジア大洋州課

2018年03月30日

インフラの脆弱性はインド投資の課題の一つだが、政府は毎年巨額の予算を投じてインフラ整備を進める。政府はASEANとの物流連結性のカギといえるインド北東部の開発にも着手しており、その開発パートナーとして日本を指名した。連載の3回目は、インドにおけるインフラ整備の実態、北東部開発の現状を報告する。

インフラ関連予算を拡充

政府は2018年2月に発表した2018年度予算案の中で、インフラ整備に向けて前年度予算を20%以上上回る5.9兆ルピー(約10兆円、1ルピー=約1.7円)を計上した。モディ政権が誕生した2014年度のインフラ予算は1.8兆ルピーだったが、2018年度はその3倍以上となる。インドのインフラ整備は発展途上であり、道路や鉄道、電力、水道などの未整備が、インド進出日系企業の事業運営上の課題の1つにも挙げられる。

2018年度予算案では、5.9兆ルピーのうち1.5兆ルピーが道路整備に配分されることになった。政府は2017年度に9,000キロの高速道路を整備したというが、インドは道路の総延長は330万キロと世界第2位の長さであり、近代化には莫大な予算と時間がかかる。政府は高速道路整備の速度は27-28キロ/日から41キロ/日に加速する目標を掲げる。

さらに、鉄道整備にも1.2兆ルピーの政府予算を投じる。インドの鉄道網は6.5万キロと世界第4位の長さを誇る庶民の足だ。しかし、脱線事故が頻発し死傷者が出ており、鉄道システムの近代化は喫緊の課題だ。政府は2017年度だけで3,600キロを超える軌道の架け替えを実施し、北部で冬季に深刻な霧対策や、鉄道衝突回避システムなどを順次導入していく方針だという。

他方で、政府はインド西部と東部で貨物専用鉄道の整備も進めている。インドでは貨物列車よりも旅客鉄道が優先して運行されており、貨物列車には時刻表がないのが現状だ。物流の脆弱性を改善すべく整備を進めるのが貨物専用鉄道であり、特に西部のデリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)については、総事業費9,000億円の事業費の7割が日本の円借款で賄い、土木や軌道整備事業などで日本企業も参画する。その屋台骨とも言える貨物専用鉄道の整備は進んでおり2025年の全面開業が目指されている。開業すれば日系企業が集積するデリー・ムンバイ間が現在の3日から1日で結ばれることになる。

北東部の開発と新たな物流の潮流

インドでは、新たな物流ルートを作り出そうとする動きもある。それがインド北東部を経由し、ASEANと結ぶルートだ。同地域はアッサム州やマニプール州、ナガランド州といった日本には馴染みの薄い7つの州から構成され、地政学上の強みを持ちながら、インフラ開発や経済発展が遅れている。近年、インド政府は、「アクト・イースト政策」を掲げ、同地域の振興、隣接国とのコネクティビティー強化を通じて地域の経済、民生の開発と振興を図ろうとしている。

こうした背景の下、インドの外務省、北東開発省や州政府、在インド日本大使館、JETRO、JICAなどを中心メンバーに据え、インド北東部における日印協力について議論する枠組「日印アクト・イースト・フォーラム」が17年12月に発足した。本フォーラムを通じ、インド政府および北東部各州と日本のプレイヤーを結びつけ、開発プロジェクトの確実な履行、さらにはバングラデシュやASEAN周辺国における日本のプロジェクトとの連携を図ることが期待される。

ASEANとの「陸の物流」

しかし、足元では、インドで事業展開する日系企業の大半が、ASEANとの連結性の有無について限定的な見解を示している。コスト競争の厳しい製造業では、輸入調達を極小化し、現地調達率を引き上げることが至上命題となっている。ただし、前述のとおり、インドで入手困難な部材を調達するケースや、インドに販社しか持たない企業がASEANからの輸入に頼るケースは存在しているが、その場合は海上物流が基本となっている。例えばタイ・バンコクからインド・デリーに向けて製品を発送した場合には、バンコクから南下しマラッカ海峡を経由してインドの西部ムンバイの港で陸揚げされることになる。ムンバイ港の混雑状況やムンバイ‐デリー間の鉄道輸送にかかる時間などを踏まえると、必ずしも効率的な物流体制が構築できているとは言えない。インドとASEANがインド北東部を経由して「陸の物流」で結ばれるという新たな流れが生まれようとしている。

(西澤知史)

(インド)

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