労務関連の社内規定を整備しトラブル予防-武漢市で日系企業向け労務・税務セミナー開催(1)-

(中国)

武漢発

2018年03月08日

ジェトロは2月2日、日系企業の進出が続く湖北省武漢市で、労務・税務に関するセミナーを開催し、労働紛争の実例を踏まえながら「社会保険」「労働契約の解除・終了」「労働報酬」の3点で注意すべきポイントを解説した。2回に分けて報告する。前編は、中倫文徳法律事務所の朱向鳴弁護士による「ケーススタディーを通じた労務関連トラブルの予防と対策」について。

通勤路の登録などを社内で規定

朱氏によると、「社会保険」「労働契約の解除・終了」「労働報酬」それぞれにおいて、日本企業が注意するポイントがあるという。

まず、「社会保険(労災保険)」に関する労働争議について、無保険の労働者が帰宅途中の寄り道(買い物)で事故に巻き込まれ死亡した事例が労災認定され、労災補償の支給が会社側に要求された。会社側はこれを不服として行政訴訟を起こしたが、人民法院は「寮と野菜市場の往復は出退勤の合理的通路に属す」として会社側の上告を棄却した。こうした事例を踏まえ、企業側は以下の5点に注意を払う必要がある。

  • 通勤路の登録、残業申請制度などの関連社内規定を整備する。
  • 労災申請前に事実確認や証拠、証言を得る。ただし、同僚などが従業員側に有利な証言をするリスクがある点には注意する。
  • 雇用主が労災の従業員に対して賠償責任を負った場合に支給される雇用主責任保険に加入する。
  • 社員旅行やスポーツ大会など業務と直接関係ない集団行動のイベントがある場合、企業側からの参加要求の有無に注意する。
  • 社内福利施設(例えばシャワーなど)を提供する場合、「業務開始前(または開始後)に利用すること」といった文言の有無に注意する。

労働契約解除に関するプロセスを理解

次に、「労働契約の解除・終了」について。工場から金属廃材を持ち帰ろうとした従業員を、これは窃盗であり、「社内規定に対する重大な違反」として解雇した。しかし従業員は3年間の固定期間雇用契約を結んでおり、期間途中での契約解除は違法として、会社側に経済賠償金を要求した。本件は労働仲裁委委員、人民法院を経て、「社内規定に対する重大な違反」には属さず、また会社側が「契約解除前に労働組合などの意見を聴取していなかった」として、「労働契約の違法解除」と認定された。こうした事例を踏まえ、労働契約解除について、以下の4点に注意を払う必要がある。

  • 労働契約解除に関する法律規定、プロセスを理解し、有効かつ合理的な社内規定を整備する(表参照)
  • 処罰を行った事実に対し、それを立証できる証拠を準備する
  • 労働契約解除のプロセスに注意する
  • 労働契約解除の規則事項に注意する
表 労働契約の使用者による一方的解除にかかる規定

賃金支払いの根拠と記録の保管に注意

「労働報酬」に関しては、ある従業員が住宅ローンを申請するため会社から実際の給与よりも多い額の給与証明書を発行してもらい、解雇時にその証明書に基づいた経済補償金を要求したという事例がある。これに対して会社側が抗弁できる資料を提出できなかったため、労働仲裁委員会が会社側に不利な判決を行った。こうした点から、労働報酬について、以下の点に注意を払う必要がある。

  • 会社側で不審な証明書を発行しない
  • 賃金支払い関連根拠とその記録の保管に注意する
  • 労働契約書における約定、賃金制度を整備する
  • 特殊勤務制度の届け出手続きに注意する

労働仲裁の件数は増加傾向に

2012年に約140万件だった中国における労働紛争の仲裁立案処理数は、2014年に約156万件、2016年には約177万件と増加傾向にある。うち、湖北省における労働仲裁の件数は約2万4,000件で、中部4省(湖北省、湖南省、河南省、江西省)の中で最も多い。案件別では「社会保険」が40%、「労働契約の解除・終了」が35%、「労働報酬」が25%だった。

また、中国の労働仲裁案件を判決別でみると、企業側勝訴が11.2%、労働者側勝訴が35.4%、双方一部勝訴が53.4%と、企業側に不利な判決が出される場合が多く、湖北省においてもこれと同様の傾向がみられた。こうした労務紛争を未然に防ぐべく、日系企業は労働契約や社内規定の内容に注意を払う必要がある。

(片小田廣大)

(中国)

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