アフリカ大陸自由貿易圏、ナイジェリアは署名を見送り

(ナイジェリア、アフリカ)

ラゴス発

2018年03月30日

ルワンダの首都キガリで2018年3月21日に開催されたアフリカ連合(AU)の臨時首脳会合で、アフリカ44カ国がアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の協定に署名した。ナイジェリアは直前でブハリ大統領が会議への欠席を表明し、署名を見送った。南アフリカ共和国を含む他の10カ国も署名しなかった。

前向きな姿勢から一転したナイジェリア

AfCFTAは2013年に構想が発表され、2015年から交渉が開始された。実現されれば、域内人口12億、域内総生産(GDP)2兆6,000億ドルで世界有数の大型自由貿易協定(FTA)となる。AUが掲げる長期目標である「アジェンダ2063」にも、旗艦プロジェクトとして挙げられている。

ナイジェリア政府も、同協定の署名には前向きな姿勢を示していた。ブハリ大統領は、2018年1月30日にエチオピアの首都アディスアベバで開催されたAU首脳会議において、AfCFTAの推進を支持する発言をしている。前週の3月15日には連邦最高評議会(内閣)が、同協定へのブハリ大統領の署名とナイジェリアへの本部誘致に立候補することを決定したと報じられていた。

しかし、会合2日前の3月19日、ブハリ大統領は公式ツイッターで、同協定の実現に向けたAUの取り組みを評価しつつも、「アフリカ最大の人口と経済を持つ国として、締結する全ての貿易協定は大陸の長期的な繁栄をもたらすものであるべきだ」「(AfCFTAを)国内でより深く、広く議論する」などと署名を見送ることを示唆するコメントを発信。会合当日には、ブハリ大統領が会合に参加しないことが発表され、同協定への署名も見送られた。大統領は同日、再び公式ツイッターでAfCFTAについて言及し、「国内製造業や起業家を弱体化させ、ナイジェリアを完成品のごみ捨て場にするようなものには同意できない」「AfCFTAはより深い議論が必要だ」との考えを改めて表明した。

この方針転換は、ナイジェリア国内では驚きを持って報じられおり、連邦最高評議会の決定が覆されたことから、大統領と他の閣僚の意思疎通がうまくできていないのではないかとの指摘もみられる。

ナイジェリア以外にも南ア、ボツワナ、ベナン、シエラレオネなどを含む10カ国が署名を見送った。

国内業界団体からの働き掛けが影響か

ブハリ大統領が直前になってAfCFTAへの署名を見送ったのは、ナイジェリア労働者会議(NLC)やナイジェリア製造業協会(MAN)などの業界団体が、国内で十分な議論がされていないとして署名拒否へ強く働き掛けたことなどが背景にあるとみられる。AfCFTAへの署名を表明してから会合当日までの間に、何らかの話し合いがもたれ、ブハリ大統領が考えを改めるに至ったと考えられる。また、2019年初めに控える大統領選挙への悪影響を懸念し、政権として大きな反発を招く可能性があるAfCFTAへの署名に踏み切れなかったとの見方もある。

南アが署名を見送ったのも、ナイジェリアと同じく国内業界団体などから反発が起こる懸念が大きいためだ。ラマポーザ大統領をはじめ政権は署名に前向きではあるものの、大統領は「国内での国会、ステークホルダーによる手続きを踏んだ上で署名する」(「ナイジェリア・パンチ」紙3月22日)と発言をしており、国内調整には時間がかかりそうだ。

AfCFTAが発効すれば、域内からより低価格で製品が流入し、ナイジェリア国内の一部産業が打撃を受けることが避けられないのは事実だ。ナイジェリアが加盟している西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は対外共通関税を導入しており、自らも経済統合を進める立場にある一方で、鉄鋼製品や輸送機器、穀物など177に及ぶ品目に対しては追加税率を課すなど、積極的に国内産業を保護している実態もある。

一方、このままAfCFTAに参加しなければ、同協定参加国が経済的結び付きを強め、域内貿易の恩恵を受ける中、ナイジェリアはその外に置かれることになる。AfCFTAにとっても、アフリカ最大規模の経済を持つナイジェリアとそれに次ぐ南アが不参加となれば、同協定の意義が薄れかねないだろう。

(山村千晴)

(ナイジェリア、アフリカ)

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