香港の対米輸出額の8割超は中国原産品-貿易摩擦の拡大に懸念-

(香港、中国、米国)

香港発

2018年03月29日

米国政府は3月23日、鉄鋼とアルミニウム製品の輸入について、1962年通商拡大法232条に基づき、25%と10%の関税賦課を開始した。一部香港原産のアルミニウム材を除き、香港の対米輸出の主力品目には今回の関税賦課対象品目は含まれていないが、香港経済は貿易依存度が高く、政府や業界団体も、貿易摩擦がさらに激化することに対し懸念を強めつつある。

今回の米国の関税賦課による影響は限定的

2017年における香港の対米輸出額は3,302億香港ドル(約4兆2,926億円、1香港ドル=約13円)と、香港の輸出総額の8.5%を占める(表参照)。このうち、他国・地域から香港を経由する再輸出額は3,267億香港ドルと対米輸出額全体の99.0%を占め、香港の対米輸出のほとんどは他国・地域原産品になっている。

表 香港の輸出総額と対米輸出額推移

再輸出の中で最も多いのが中国原産品だ。米国向けの再輸出額全体に占める中国原産品の比率は85.0%(金額は2,775億香港ドル)に達している。

香港を通じた中国原産品の米国向け再輸出額を品目(HSコード4桁)別にみると、1位は携帯電話などの電話関係(365億香港ドル、構成比:13.1%)、2位はパソコンなどの自動データ処理機械など(212億香港ドル、7.7%)、3位が機械関係の部分品(124香港ドル、4.5%)となっている(添付資料の表1参照)。上位10位には関税賦課の対象品目はなく、今回の米国側の措置(注1)が、香港を経由した中国原産品の対米輸出に与える影響は小さいとみられる。

政府と業界団体は香港を名指しのアルミニウム関税賦課提案に抗議

一方、香港の対米輸出額全体に占める割合では1.0%にとどまる香港原産品の対米輸出額(34億6,500万香港ドル)を品目(HSコード4桁)別にみると、3位の「アルミニウムの板、シート、ストリップ」(HSコード:7606)が関税賦課の対象になっている(添付資料の表2参照)。2017年の当該品目の対米輸出額は1億6,992万香港ドルと、香港原産品の対米輸出額の4.9%を占める。香港特別行政区政府(以下、香港政府)商務経済発展局の邱騰華局長は2月27日に発表した談話で、当該輸出のほとんどが特定の香港企業によるものであることを明らかにしている。

米国側では、商務省が2月16日に発表した通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウムの輸入に関する調査報告の中で、アルミニウムに対する関税賦課の選択肢の1つとして、香港を含む5カ国・地域(香港以外では、中国、ロシア、ベネズエラ、ベトナム)からの輸入品への23.6%の関税賦課を大統領に提言している(注2)。理由として、同調査報告は、2017年1~10月の香港とのアルミニウム貿易によって、米国側に5,500万ドルの貿易赤字が生じたことを指摘している。

調査報告において、香港からの輸入品に対する関税賦課が提言されたことに対し、香港政府は、在香港の米国総領事館や、ワシントンの香港経済貿易弁事処(香港政府代表部に相当)を通じて商務省に対し強く抗議をしたほか、香港の5大商工団体(香港工業総会、香港中華廠商連合会、香港中華総商会、香港総商会、香港中華輸出入商会)も2月27日、連名で、米国商務省が大統領に提出した調査報告に対し、以下の声明を発表し、強い遺憾の意を示した。

  1. 香港から輸出、あるいは再輸出されるアルミニウム材の数量、金額は限定的で、米国に対し何らの国家安全面の脅威を与えていないこと。
  2. 米国商務省は、提言を行う前に、ステークホルダーの意見を全く聴取しておらず、その手法が極めて不公平なこと。
  3. 米国がアルミニウム材に関し、香港との間で貿易赤字が生じていることを理由に関連措置を取ることは自由貿易の原則に反しており、WTOの精神にも符合していないこと。

貿易摩擦の激化による香港の輸出への影響を懸念

2017年における香港の貿易総額は8兆2,329億香港ドルと、GDP総額(2兆6,626億香港ドル)の3.1倍に達しており、香港経済の貿易依存度は極めて高い。今回の関税賦課措置については、一部の香港原産のアルミニウムを除き、香港の貿易に対する影響は大きいとはいえないが、今後、米国向け輸出額の8割超を占める中国原産品の輸出のうち、上位品目が輸入制限措置の対象となれば、香港の輸出や経済全体への影響も懸念される。陳茂波財政長官は「香港は対外依存度の高い小さな経済体で、容易に外部の影響を受ける。政府としては今後の展開に留意していく必要がある」(香港電台2018年3月3日)とし、貿易摩擦が激化した場合の香港への影響を注視する姿勢を示している。

(注1)今回の米国による鉄鋼とアルミニウムへの関税賦課措置の詳細は2018年3月9日記事を参照。

(注2)調査報告の詳細は、2018年2月23日記事を参照。

(中井邦尚)

(香港、中国、米国)

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