農業機械の導入が本格化-老舗ローカル農業機械メーカーに聞く-

(インドネシア)

ジャカルタ発

2018年03月30日

インドネシアでは、人口が増加を続ける一方、就農人口が減少傾向にあり、農業機械の導入による生産性向上が急務になっている。同国の農業機械市場においておよそ7割のシェアを握る老舗ローカル農業機械メーカー、CV. Karya Hidup Sentosaに話を聞いた(3月14日)。

高まる農業の機械化の必要性

インドネシアでは年間約350万人のペースで人口が増加する一方、就労機会の多様化による若者の農業離れ等を背景として農業従事者は減少を続けており、農業の生産性向上が急務となっている。インドネシア統計庁(BPS)のデータによると、2017年8月の農業従事者は約3,590万人で、前年比で約190万人、5年前と比べて約300万人減少している。

インドネシア政府は、主食であるコメの自給化を進めるため、コメを原則輸入禁止とする一方、販売価格の安定を目的に、小売価格の上限(例えば、ジャワ地区における中級米の小売価格の上限は9,450ルピア/kg)を設定している(商業大臣令2017年57号)。しかし、コメ市場の備蓄が減少し、この上限を超える水準で小売価格が推移したため、2018年1月には50万トンのコメの輸入許可をBULOG(食糧調達庁)に出さざるを得ないなど(テンポ紙、2018年1月16日)、うまく政策を推進できていないのが実情だ。生産性を向上させてコメの安定供給を図ることが重要な課題となっている。

このようななか、灌漑の整備や品種改良、肥料の供給等と並んで、生産性向上の鍵となるのが農業機械の導入だ。農作業の負担を少しでも軽減し、農業離れに歯止めをかける効果も期待される。そのため、農業省は、農業機械を調達して農家に提供することで、政策的に生産性向上を後押ししている。地元紙によると、同省の2017年度予算のうち、「農業機械調達」については、二輪トラクター25,000ユニット、四輪トラクター3,000ユニットなど、総額2兆9,000億ルピア(225億円、1円=129ルピア)だった。同予算は増加しており、2018年は3兆6,800億ルピアが計上されている。日本企業にとっても、バイクや自動車の販売市場の伸びが鈍化するなか、政府予算の後押しもある農業機械は有望分野と言えるだろう。

日本式のものづくり手法で農業機械を製造

インドネシアの農業機械市場において、およそ7割のシェアを握る有力企業がジャワ島中部の古都ジョグジャカルタにある。1953年創業の老舗農業機械メーカーCV. Karya Hidup Sentosaだ。同社は、Quickというブランド名で二輪・四輪の農業機械を製造・販売している。創業者であるキルジョ・ハディ・スソノ氏の中国名の苗字「郭」の福建語読みの発音(Kwik)と同じ英単語「Quick」をブランド名にしたという。

ジェトロ・ジャカルタが3月14日に同社を訪問して、社長のヘンドロ・ウィジャヤント氏に話を聞いたところ、主力製品は、民間と政府との両方から注文がある二輪トラクター(手押しタイプ)だった。四輪トラクターの製造も開始しているが、まだ市場は小さいという。そのほか、コンバインハーベスターや、最近では四輪トラクターをベースにした農村用車両も販売している。価格は手押しタイプの小型耕うん機で9,540,000ルピア(約74,000円、送料抜き)、コンバインハーベスターが84,600,000ルピア(約65万6,000円、送料込み)、農村用車両が57,600,000ルピア(44万7,000円、送料込み)などとなっている。国内販売だけでなく、アジア、中南米、アフリカの16カ国に輸出している。

写真 ヘンドロ社長(右から1人目)(CV. Karya Hidup Sentosa提供)

同社は、ジョグジャカルタ市内に本社および第一工場(5ha)があるが、4年前に郊外のクロン・プロゴ県に第二工場(35ha)を新設している。設計、鋳造、プレス加工、機械加工、溶接、塗装、組立等を一貫して社内で手掛けており、特に鋳造部品の品質は高く、日系アセンブリー・メーカーやフランス系企業に鋳造部品を納入するほどのレベルである。工場には多数のCNC工作機械のほか、溶接工程ではロボットも導入されていた。同社の品質重視の姿勢がうかがえる。

写真 鋳造工場(CV. Karya Hidup Sentosa提供)

他方、同社工場では、ものづくりへの高い意識と日本的手法へのこだわりが随所に感じられる。日本人専門家の受け入れや日本への研修生の派遣、日系自動車メーカーのインドネシア人OBの採用等を通じて、日本式のものづくり手法を取り入れており、工場内は5Sや安全管理、写真入りのボード等による見える化が徹底されている。ヘンドロ社長自身、工場構内の道路を横断するたびにきちんと指さし確認を行っていた。また、人材育成のための「Dojo(道場)」もあり、さながら日系アセンブリー・メーカーのようである。従業員は採用後、社内で十分な研修を受け、即戦力として仕事をすることができる。

写真 Dojoの様子(CV. Karya Hidup Sentosa提供)

同社は日本企業とのかかわりも古い。1960年にクボタ製ディーセルエンジンの販売を始め、その後、1972年にクボタと中ジャワ州スマランに合弁企業を設立し、ディーゼルエンジン等を製造している。エンジンは国内向けの他、アセアン諸国や日本などに輸出されている。

日本企業との協業可能性

2018年の最低賃金(月額)は、ジョグジャカルタ市で1,709,150ルピア、クロン・プロゴ県で1,493,250ルピアと、日系企業が集積するジャカルタ周辺と比べると半分以下の水準である。例えば、ジャカルタ特別州で3,648,035ルピア、ブカシ県で3,915,353ルピア、カラワン県で3,919,291ルピアとなっている。日本企業がインドネシアの農業機械市場に参入する方策として、日本企業との協業の可能性について尋ねたところ、「日本企業との協業についてはオープンである。当社と協業することにより、インドネシア国内の販売のみならず、第三国への輸出や、日本国内での販売も視野に入れることができるだろう」(ヘンドロ社長)。ただし、「製品のアイデアが良いこと、意思決定が早いことが不可欠だ」と注文をつける。

インドネシアでは今後も農業機械市場の拡大が見込まれるが、ヘンドロ社長は「農業発展のためには、政府の支援に依存するのではなく、農家が自らの経済的能力や必要性に応じて農業機械を購入し、自立することが欠かせない」という。「農家が自立するには、コメの販売価格を自由に決められるようにする必要があるが、現状、政府がコメの小売価格を低く抑えており、農民が自発的に生産性を向上させるためのインセンティヴが少ない」。この点は農業機械市場の持続的拡大に影響を与えるため、注意が必要だろう。

社名:CV. Karya Hidup Sentosa

住所:Jl. Magelang 144, Yogyakarta 55241 – Indonesia

電話:+62-274-512095

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(吉田雄、山城武伸、アリフ・プルノモシディ)

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