先進国の病院が拡大している中東の医療需要に注目-中東最大医療機器展示会「アラブヘルス」開催(3)-

(アラブ首長国連邦)

ヘルスケア産業課、ドバイ発

2018年03月30日

先進各国の病院が中東をターゲットに病院の設立や現地病院との連携を通じて医療サービスの提供を行っている。現地政府や現地病院も世界一流の病院との連携に意欲的で、サービスの提供側、受け入れ側が相思相愛の関係にある。

中東をベースに事業展開

中東で現地法人を設立し、中東地域をベースに患者を勧誘している病院がある。たとえば、婦人科治療で定評のある米国シカゴのノースウェスタン記念病院は2016年にドバイの私立オーキド・ファティリティ・クリニックと連携し、ドバイで新しい治療方法で不妊治療サービスを提供している。米国で年間に90カ国以上から8,000人以上の外国人患者を受け入れているシカゴのヒューストン・メソジスト病院も2016年にドバイの中心部に病院を開設した。

米国式病院を積極誘致

中東各国政府は世界的に知名度のある病院を現地で建設させ、中東で世界最高水準の医療サービスを提供することに意欲的だ。アブダビ政府100%出資の投資会社ムバダラ・ディベロップメント・カンパニーはサウジアラビアの中長期的な国家ビジョン「ビジョン2020」に掲げる医療制度の充実のため、米国のクリーブランド・クリニックと連携し、2015年にアブダビで364床の病院をオープンした。当該病院は、中東の患者だけではなく、世界中の患者を迎え入れるために、30以上の言語を話せるスタッフが配置され、2016年に国内外から30万人以上の患者を受け入れている。

国内外の病院連携も進む

中東各国の病院は病院のブランド力を上げ、より多くの患者を行け入れるため、世界的に有名な海外大手病院との連携に積極的だ。ドバイで開院20年のアメリカン・ホスピタル・ドバイはさらなる事業拡大を目指し、2016年に米国大手病院メイヨー・クリニックのケア・ネットワークの一員になった。これにより、最新のメイヨーでの疾患管理情報へのアクセスができる他、病院間で複雑なガンに対する治療方針に関する会議を行うなど、患者ケアのための医療知見の共有を行っている。また、レバノンで唯一JCI認証(注)を受けている現地のクレメンソー・メディカル・センターは、米国の医師と治療方針に関する協議や知見の共有などを行うため米ジョンズ・ホプキンス大学病院と連携している。その他、スイス私立病院協会「ザ・スイス・リーディング・ホスピタルズ」のメンバーであるUAEのラス・アル・ハイマにあるラックホスピタルは、スイス基準の健康診断サービス、糖尿病治療、スパサービス、幹細胞治療法によるひざ関節の痛みを治療するサービス等をアピールし、アフリカ地域を重点に医療ツーリズムの勧誘に力を入れている。

中東での事業拡大今後も加速

中東で現地法人をまだ設立していないが中東地域の患者を自分の国に勧誘している病院が、今後中東で事業展開を検討している動きもある。たとえば、USニューズ・アンド・ワールド・レポートのランキングの米国小児領域で3年連続20位以内に入っている米国ワシントンDCにあるチルドレンズ・ナショナル・メディカル・センターは現在難治療疾患を抱える児童を海外から受入れている。今のところ中東からの受入れは少ないものの、出産率が高い一方でまだ幼児死亡率が高く、そのうえ小児専門病院がほとんどないことから、中東市場の潜在性に商機を見出している。また、同ランキングで、リハビリ分野で27年間連続で米国1位シカゴのシャーリー・ライアン・アビリティ・ラボは中東を含め年間50カ国以上から5万人強の患者を受け入れている。現在は海外で現地法人設立の実績はまだないが、中東からの患者を増やすため、近々にUAEでオフィスの設立を検討しているという。先進国の病院の中東での事業展開は今後も加速されるだろう。

(注)JCI(Joint Commission International)とは、1994年に米国の病院評価機構(JC:The Joint Commission)から発展して設立された、医療の質と患者さんの安全性を国際的に審査する機関だ。JCI認定を受けている医療機関の数は、100か国以上での800強だ。

(宮崎アナスタシア、安藤雅巳)

(アラブ首長国連邦)

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