20年ぶりの税制改革、一部は大統領が拒否権

(フィリピン)

マニラ発

2018年03月28日

2018年1月に20年ぶりとなる税制改革法を施行したフィリピン。個人所得税では納税者の99%が減税対象となるなど画期的だ。しかし、一部については法案の段階で大統領が拒否権を発動しており、今後の行方は不透明だ。

納税者の99%が減税となる個人所得税の改正

税制改革パッケージ第1弾で実施する個人所得税の改正により、全納税者の約99%が実質的に減税対象となるとされている(表参照)。特に、年間課税所得25万ペソ(約50万円、1ペソ=約2円)以下の納税者(全納税者の約83%)は、今回の税制改革によって個人所得税がゼロとなった。これにより、国民全体の可処分所得が実質的に上がることになる。他方、昨今のペソ安、原油価格の上昇や、物品税の増税によってインフレ圧力が高まっている。フィリピン中央銀行は2018年の消費者物価指数(CPI)の上昇率を、2012年以降で最も高い3.4%と予想している。個人所得税の改正による可処分所得の上昇が、ただちに国内の消費拡大につながるか、現時点では不明確だ。

表 個人所得税の改正内容

マニラ首都圏の日額最低賃金(非農業部門)は、2017年10月に491ペソから512ペソに引き上げられたばかりだが、物品税増税に伴う物価上昇の負担を軽減するため、政府は最低賃金労働者に対して月額500ペソの補助金を支給することを検討している。今回の改正によって、多くの従業員の源泉徴収税率が2018年1月から変更された。変更後の源泉徴収税率を用いて計算しなかった場合、再調整をする必要があり、間違った申告や納付をすると、還付が困難となる恐れもある。

ROHQとRHQの個人所得税優遇で大統領が拒否権

外国市場における自社の子会社、支店または関連会社の統括・連絡・調整センターとしてフィリピンに事業所を登録する場合、地域事業統括本部(ROHQ)または地域統括本部(RHQ)と認められ、各種優遇措置PDFファイル(458KB)を受けることができる。例えば個人所得税では、ROHQ、RHQが雇用する外国人は、給与、年金、報償、賃金として受け取った総所得に対する税率が15%となる優遇制度がある。第1弾パッケージでは、2018年1月1日以降にROHQまたはRHQとして登録する企業のみ当該15%の優遇税率の対象外とされ、同日より前に登録されていた場合は15%優遇税率を継続できる内容だった。ただしドゥテルテ大統領は、いずれも優遇税率の対象外とするよう拒否権を発動しており、今後の動向を注視する必要がある。

大統領は間接輸出へのVAT課税に動く

フィリピン経済特区庁(PEZA)が所管する経済特区内の登録事業者に対する商品の販売およびサービスの提供(間接輸出)について、今回の税制改革以前と同様に、付加価値税(VAT)を免除するとの規定が定められた。しかし、これに対しても大統領が法案に拒否権を行使したため、現時点では当該改正は有効にはなっていない。仮にVATが免除されなくなる場合、PEZAに入居する日本企業は今後、材料やサービスの調達時にVATを支払う必要が生じることになる。

経済成長のカギとなる税制改革の行方

ドゥテルテ政権は、政権発足直後から大規模なインフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」を推し進め、任期満了の2022年までに総額8兆4,000億ペソの予算を鉄道、道路、空港などインフラの開発や整備に投じる計画だ。今回の税制改革はこの財源を生み出すために不可欠のもので、GDPに占めるインフラ支出の割合を2017年(5.4%)、2018年(6.3%)と引き上げ、最終の2022年には7.3%に達する方針だ。過去の政権のインフラ整備計画は財源確保を実現できず、計画が中断した経緯がある。ここ数年の間、年率6%以上の経済成長が続くフィリピンにおいて、今後の経済成長に大きな影響を与える今回の税制改革の行方に注目が集まる。

フィリピンの税制の詳細については、ジェトロウェブサイトPDFファイル(504KB)で確認できる。

(坂田和仁)

(フィリピン)

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