新就労ビザ(TSSビザ)への完全移行が開始-従来の長期就労ビザ(サブクラス457ビザ)は廃止-

(オーストラリア)

シドニー発

2018年03月30日

連邦政府内務省は3月18日から、従来の長期就労ビザ(サブクラス457ビザ)を廃止し、テンポラリー・スキル・ショーテッジ(TSS)ビザ(サブクラス482ビザ)へ完全移行すると発表した。

オーストラリア連邦政府は、2017年4月、「オーストラリア人の雇用と価値観を最優先する」との観点から、長期就労ビザ(サブクラス457ビザ)を2018年3月に廃止し、新たにテンポラリー・スキル・ショーテッジ・ビザ(TSSビザ)を導入すると発表していた。その後、2018年3月までの1年間は猶予期間と位置付け、段階的見直しを経た上で、今回の完全移行へと至った(添付資料参照)。

TSSビザ、職業リストは厳格化

主な変更箇所は以下のとおり。

・TSSビザ導入により、従来の職業リスト(CSOL)が厳格化され、短期熟練職業リスト(STSOL)と中長期戦略技能リスト(MLTSSL)へと改編された。ビザの有効期限は、CSOLが4年であったのに対し、STSOLは2年、MLTSSLは4年へと変更された。さらに、職種によっては職種ごとの追加要件(Caveats)が設定された。

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・英語力テスト(IELTS)について、サブクラス457ビザでは年間給与が9万6,400オーストラリア・ドル(約780万円、豪ドル、1豪ドル=約81円)以上の場合には免除されていたが、TSSビザにおいては、同給与条件に加え、「申請者が他国からの駐在員である場合」との免除条件が追加された。

・犯罪経歴証明書(無犯罪証明書)は、従来は提出義務がなかったものの、TSSビザでは、16歳以降において、過去10年間かつ12カ月以上滞在した全ての国での犯罪経歴証明書の提出が義務化。ただし、ビザ申請者の無犯罪経歴が認定スポンサー(注)によって確認される場合は、オーストラリア以外の国での犯罪経歴証明書の提出は免除。

・スポンサー企業が現地従業員(オーストラリア国籍保持者および永住者)に対し行う研修基準(トレーニング・ベンチマーク)は、実施要件が厳格化された上で、職業訓練費用の支払い義務(トレーニング・ファンド・レビー)へと置き換わった。(本稿執筆時点で関連法案審議中)

・永住ビザへの切り替えについては、MLTSSLのみ、ビザ取得から3年を経過した後に切り替え可能となったほか、45歳までの申請者しか認められないという年齢制限が設けられた。

日系企業への影響は当初の想定より縮小も懸念あり

2017年4月の新ビザ導入の発表当初、ビザ制度の変更および発給要件の厳格化は、オーストラリアに進出している日系企業や外国企業に多大な影響を及ぼす可能性があると懸念された。

例えば、日系企業の駐在員の多くが選択している最高経営責任者(CEO)や業務執行役員(MD)の職種はSTSOL(有効期限2年)に分類され、Caveatsも厳しい内容であった。さらに、IELTSが必須となるなど、企業活動に多大な影響を与えることも想定されていた。

その後、日本側が官民を挙げて連邦政府に日豪経済連携協定(EPA)の条項を踏まえた見直し要請の結果、今回のTSSビザ(4月以降の期中見直しを含む)においては、これらの職種はMLTSSLに分類(ビザの有効期間がサブクラス457ビザと同じく4年間)へと変更された。Caveatsも、当初の「年間売上高が100万豪ドル未満、スタッフが5人未満、年間給与が9万豪ドル未満の場合はビザを発給しない」という条件から、日本などEPA・FTA締結国は対象からはずした「EPAなどの締結国の駐在員を除き、年間給与が18万豪ドル以下の場合はビザを発給しない」へと変更されるなど、ビザ発給要件が大幅に緩和された。さらには、IELTSの免除要件も復活するなど、日系企業への影響は当初懸念されたよりも縮小した。

一方、CSOLから一部職種が削減されたことや、犯罪経歴証明書の提出義務(認定スポンサーによる免除要件あり)が加わったことなど、依然として影響を及ぼす要素が残る。

全豪日本商工会議所連合会(FJCCI)は、ビザ制度の変更がオーストラリアでの事業活動に影響を及ぼしている具体的な事案があるかどうか、2018年3月に改めて会員企業から意見を募集している。

ビザ制度変更を懸念する日系企業が増加

ジェトロは2017年10~11月、アジア・オセアニアにおける進出日系企業を対象に「2017年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」を実施した。

本調査の項目のうち、オーストラリアにおける「投資環境上のメリットとリスク」という回答結果(複数回答)をみると、「ビザ・就労許可取得の困難さ・煩雑さ」について、2016年度の時点で17.0%だったが、2017年度で38.6%と大きく上昇している。ビザの制度変更について、在オーストラリア日系企業による懸念が反映された。

現地でビザ問題についてアドバイスしている会計事務所アーンスト&ヤングの篠崎純也ディレクターによると、「実際のビザ認証にあたっては、公開されているビザ申請条件に加え、審査当局の裁量により決定される部分もある」という。また、「TSSビザの職業リストは半年毎に見直される予定で、ビザ制度自体も短期間で変更される可能性もあるため、最新の情報を正確に理解する必要がある」とのことだ。

(注)認定スポンサーは、申請に基づき認定される。その際、組織の性格、オーストラリア人の雇用比率、TSSビザ又は旧サブクラス457ビザ保持者の雇用状況等による審査を受ける。認定された場合は、犯罪経歴証明書の提出義務免除以外にも、ビザ申請において優先的に審査を受けることが可能といった恩恵を受ける。なお、本認定条件は、2017年7月に引き続き今回においても、オーストラリア人雇用比率の引き下げなどの条件緩和が行われている。

(藤原琢也)

(オーストラリア)

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