英国、EU、ドイツの立場から駐在員が解説-「ブレグジットの最新動向」セミナーを東京で開催-

(英国、EU、ドイツ)

欧州ロシアCIS課

2018年03月02日

ジェトロは2月19日、「EU、英国、ドイツから見た英国のEU離脱(ブレグジット)の最新動向」セミナーを東京で開催した。ロンドン、ブリュッセル、ベルリンのジェトロ駐在員が、それぞれの国・地域からみたブレグジットの最新動向を伝えた。英国とEUの交渉上の立場の相違点や今後のタイムラインの解説とともに、ドイツにおけるチャンスとして、スタートアップ集積地としての優位性が高まることが紹介された。

離脱から将来関係までのパッケージディール

最初に講演したジェトロ・ロンドン事務所の貴田仁郎産業調査員は、「2016年6月の英国の国民投票では、どのようなかたちで離脱するのか示されないまま離脱が選択された。与党・保守党内ではいまだにどのようなかたちで離脱すべきか意見が分かれている」と解説した。

現在、交渉が進められている離脱合意は、「在英EU市民・在EU英国民の権利保障、アイルランドとの国境問題、財政問題の解決(清算)からなる離脱協定と、移行期間の取り扱いに関する協定、EU・英国の将来関係の枠組みの3点から構成されるパッケージディールだ」とし、「全体として合意するか否かが問われるため、どれか1つでも合意できないとノーディール(No Deal)となる」と強調した。

現在、英国議会上院で「EU(離脱)法案」が審議されている。この法案は、離脱時点で英国の法体系に直接組み込まれているEU法をそのまま英国法に置き換えるなどした上で、将来的に置き換えられたEU法と対立する新法が策定された場合には新法が優先することなどを定めるものだ。2017年12月には、離脱協定の合意には当たっては英国議会でその内容を承認する法案を可決しなければならない、とする修正案を下院が可決した。貴田産業調査員は、この修正案が上院でも可決された場合には、(EUが第2段階の交渉期限としている)2018年10月にEUとの交渉が合意に達した後、離脱合意案が英国議会で審議される可能性があるとし、「2018年の10月が1つのターニングポイントとなる」と話した。

EUと英国でブレグジットに対する感覚の差

続いて講演したジェトロ・ブリュッセル事務所の井上博雄所長は、「ブレグジットに対しEUと英国で感覚の差が生じている」とし、交渉の進捗状況についてEU側は状況を大変深刻に受け止めており、EU側からみると英国から上がってくる情報はやや楽観的にさえ感じられている風潮があると紹介した。またEUにとっては、離脱する英国と緊密な関係を構築することは重要だが、それ以上に「ブレグジット第2弾となる国が出ないこと」を重視しているとした。1月下旬にEU理事会が採択した移行期間についての交渉方針を示した交渉指令(2018年2月1日記事参照)については、「英国にとって非常に厳しい内容となった」と述べ、「EU側では、英国に交渉のレバレッジはないとする傾向が強いため、こういった厳しい内容になる」と説明した。

さらにEU側では、欧州委員会、欧州議会、欧州理事会(EU首脳会議)、EU理事会からなる複数の意思決定プロセスを経なければならないことも踏まえ、「今後の交渉はかなりタイトなスケジュールになる」と展望した。

ドイツは「比較優位性」でチャンス

ジェトロ・ベルリン事務所の是永基樹次長は、英独関係や、ドイツにおけるブレグジットのリスクとチャンスについて講演した。ブレグジットの影響については、ドイツにとって英国は最大の貿易黒字相手国であり、対外直接投資先としても4位と関係は深いものの、大手格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)が輸出・投資・資金・人の4指標でブレグジットの影響度を算出した「ブレグジット感度指数」では欧州で11位と低いことを紹介した。また、EU統合の推進役として「ドイツはブレグジットそのものよりもブレグジットによってEUの結束が崩れることを問題視している」とした。

ドイツにとってのブレグジットのリスクとしては、EUへの拠出金の負担増、関税・通関手続き・規制対応コストの発生などによる双方向の貿易減、雇用や英国におけるドイツ製自動車の販売など自動車業界への影響、最終仕向け地としての英国への輸出でなくてもサプライチェーンに英国が入っていることによりコストが増大する可能性を挙げた。他方、ドイツにとってのチャンスとしては、まず「比較優位性」を挙げた。英国経済はブレグジットによる不透明感などから消費が減速している一方で、ドイツ経済は輸出・個人消費が牽引し堅調に成長している。さらに、欧州を代表するスタートアップや新規事業創出を支援する環境が整っていることを挙げ、ベルリンとミュンヘンは、技術開発人材数やミートアップ(新事業などの特定の議題に関心を持つ人が集まる意見交換会)数などにおいて欧州の上位となっていることを紹介。また、サイバーセキュリティーや自動運転、ロボティクスなどの分野でドイツは欧州で最も新技術の獲得に適する国だとする、ベンチャーキャピタルのアトミコ(Atomico)と欧州最大規模のスタートアップ企業向けイベント主催団体スラッシュ(SLUSH)による調査結果を紹介した。

質疑応答では、日英自由貿易協定(FTA)の見通しや、EUにおけるドイツの立場の見通しなど幅広い質問が挙がった。クリフエッジ(離脱交渉が決裂して協定の空白期間が生じる事態)の可能性についての質問に対して、井上所長は「クリフエッジがないことを皆が願っているが、依然楽観はできない。企業はスピーディーな対応が取れるよう最悪の事態に備えていただきたい。ジェトロとしても支援をしていく」と述べた。

(深谷薫)

(英国、EU、ドイツ)

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