香港で7店舗を展開するミキモト-香港のサービス産業市場(1)-

(香港)

中国北アジア課

2018年03月30日

香港は、1997年の中国への返還後も「一国二制度」に基づき、中国とは異なる独自のビジネス環境を維持している。日本企業の香港でのビジネス展開も活発に行われており、2017年における在香港の日本企業数は1,378社と、国・地域別で1位である。香港に進出している日系サービス産業企業5社に、香港でのビジネスの強みや課題についてヒアリングを行った。5回に分けて紹介する。1回目は、宝飾品の製造・販売を行うミキモト(本社:東京都中央区)の在香港の現地法人、御木本真珠寶の市村未来・執行董事と小宮山圭助・高級市場経理に香港でのビジネスについて聞いた。

CEPAを利用し、香港経由で中国にゼロ関税で輸出

Q.香港に進出した経緯は。

A.香港には1954年に進出した。香港は自由貿易港であり税金が免除され、また日本では自由化されていなかった金製品の輸出が可能であり、しかも金の値段は安く自由に入手でき、賃金もまだ低い水準にあったことなどが進出の理由として挙げられる。当初は卸売りが主な事業内容であったが、現在の主な業務は小売業務である。香港法人設立当初は、現地百貨店との合弁形態であったが、現在は日本の本社100%の出資形態で事業を行っている。

Q.現在どのように香港での事業を展開しているのか。

A.当社は、中華圏や東南アジアの統括拠点としての役割も担っている。香港では、中国本土や他地域の情報も収集できるほか、英語が比較的通じることも1つのメリットとなっている。

2017年末時点での中華圏での出店数は、香港に7店舗、マカオに1店舗、中国本土(北京:2店舗、上海:2店舗、天津、南京、瀋陽、成都)に8店舗、台湾に10 店舗となっている。

当社は、中国本土と香港との経済連携緊密化取り決め(CEPA)を利用して、香港で商品を加工し、「Made in Hong Kong」製品として、中国本土にゼロ関税で輸出している。ただし、香港で加工するものは真珠のピアスなど、比較的簡易な加工で作ることができるものである。高度な技術が必要なものは、日本で加工した後、香港を経由して中国本土に輸出している。

中国人観光客が香港の店舗の売り上げ全体の6割を占める

Q.香港の店舗の客層は。

A.中華圏にある拠点の売上総計のうち半分を香港拠点が占める。しかし、香港人による売り上げは香港拠点の売り上げの2割程度に過ぎず、6割は中国からの観光客によるものとなっている。

理由としては、香港の店舗と中国本土の店舗の商品価格差が挙げられる。中国では商品に関税やその他の間接税が賦課されるため、中国の商品の店頭価格は香港の価格より高い。そのため、中国本土の店舗で商品の下見をした後に香港の店舗に来店し、スマートフォンで撮影した写真を提示しながら「この商品はありますか」と尋ねてくる顧客も少なくない。

中国本土からの観光客による購買が多いため、固定客が少ないという課題を抱えており、WeChat(微信)などを用いて中国本土にいる顧客や、中国本土から香港に移住してきた顧客へのPRに力を入れるなど、固定客の獲得に力を入れている。

なお、真珠を購入する人の年齢層は70年代生まれ、80年代生まれが多い。今後高齢化の進展に伴い、真珠への需要は一層高まると考えている。

良い物件とヒトの確保が重要

Q.香港でのビジネス上の課題は。

A.課題としては、香港の家賃や人件費の高さが挙げられる。

香港では、店舗物件をいかに良い条件で確保するかが非常に重要である。そのため、香港の不動産市場に関する情報収集を不断に行っているほか、良い物件があれば紹介してもらえるよう、デベロッパーと良好な関係作りにも力を入れている。最近香港で力を強めている中国系デベロッパーとの関係構築も重要となる。加えて、物件賃貸に際しての賃料交渉も欠かせない。

人の定着や育成は、香港および中国共通の課題である。特に香港は転職社会であり、人材を採用してもすぐに辞めてしまうことも少なくない。良い顧客は販売員個人につく。そのため、ブランドなどに特にこだわらない顧客は、贔屓にしている販売員が違うブランドに転職したら、一緒に移ってしまうといったこともある。

また、香港では家賃などコストが高い上に、他の宝飾店との競争も激しいことにも注意する必要がある。そのため香港では差別化を図るべく、自社がトップブランドである真珠製品を中心に取り扱っている。

Q.ECなどが近年注目を浴びているが、貴社はどのようなネット戦略を取っているのか。

A.香港でECは行っていない。

香港の市場においては店舗での販売員との交流体験がきわめて重要と考えているので、対面販売重視の姿勢をとっている。

一方、知名度向上のためウェブを通じたPRは積極的に行っている。

FTAをより積極的に活用

Q.今後、どのような店舗展開をしていくのか。

A.中国においては、現状6都市8店舗で展開しているが、まだ拡大の余地はあると考えている。中国内陸部への進出計画も進めている。

2017年11月に締結されたASEANと香港の間のFTAの活用も検討していきたい。マレーシア、フィリピン、インドネシアは外資の出店規制が厳しい。FTAを活用することで、より有利な形態で参入できればと考えているが、今後FTAの内容を詳細に研究していく必要がある。

(楢橋広基、カン・カレン)

(香港)

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