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厳格になる税務調査の動向に留意-武漢市で日系企業向け労務・税務セミナー開催(2)-

(中国)

武漢発

2018年03月09日

ジェトロが2月2日に湖北省武漢市で開催した、労務・税務に関するセミナー報告の後編は、会計事務所デロイトトーマツ上海の板谷圭一税務パートナーによる「湖北省における税務調査の動向」について。湖北省内でも厳格化される税務調査について、実例を踏まえながら日系企業が留意すべき基本事項などが紹介された。

国税と地方税の連合調査が頻繁に

板谷氏の講演概要は以下のとおり。

これまで国税と地方税は別々に税務調査が行われることが多かったが、「金税三期」(新しい税務申告管理システム)の導入以降、国税と地方税の連合調査が頻繁に行われるようになった。また、企業の納税データなどをシステム上で一括管理し、税務に問題を抱えている可能性のある企業を検知するシステムが構築されたことで、当局による税務管理がこれまで以上に厳格化している。

湖北省や武漢市の国税対応部門でも、企業所得税の確定申告後に各企業の財務データや納税データをシステム上でスクリーニングし、リスクポイントの高い企業を選別して質問リストの提出と回答要求を行っている。また、税務調査(国税)では、主要対象税目である企業所得税と増値税において、表1のようなポイントが指摘される傾向にある。

表1 税務調査(国税)の主要対象税目および指摘されやすいポイント
税目 指摘されやすいポイント
企業所得税
  • 収入の完全性
  • 費用の過大計上と損金不算入項目
  • 固定資産の減価償却
  • 福利費用の集計
  • 商業保険
  • 賃金給与の範囲
  • 長期前払費用
  • 資産損失
  • 源泉徴収
増値税
  • 控除証憑(ひょう)の事実性と合法性
  • 仕入税額の転出(振替)
  • 収入の完全性
  • 見なし販売
  • 対価外費用
  • 混業、混合、兼業
  • 適用税率
  • 発票の処理

(出所)セミナー資料

「自主調整」と「正式調査」の違いに留意を

湖北省内のある企業では、利益に対してロイヤルティーなどの対外送金が多いことを税務局から指摘され、事情の説明とロイヤルティーなどの価格決定ポリシーに関する資料の提出を要求された。当局から、対外送金額が利益額を上回っていることや、本社と現地法人の利益の差などについて質問を受けたが、当局の納得は得られず、移転価格の正式調査を受けることとなり、追徴が発生することとなった。

「正式調査」とは、税務機関が納税者に対して正式に「税務検査通知書」を発行した上で行う税務調査を意味する(表2参照)。他方、納税者が自主的に税務上の課税所得に加算調整(特別納税調整)を行う「自主調整」で対応するという手段もある。自主調整を行うと、正式調査に比べて低い利益率でも当局からは指摘を受けない可能性があり、自主調整後にあらためて正式調査が行われる可能性は必ずしも高くない。ただし、一度自主調整を実施した企業は、毎年自主調整が求められる可能性がある点は注意が必要だ。

表2 自主調整と正式調査の比較(目安)
項目 自主調整 正式調査
調整利益率水準 正式調査に比べて、低い水準の利益率が受け入れられる可能性。    比較的高くなる傾向
対応所要期間 2~3カ月(場合により1カ月)       1~2年(3年以上かかる場合も)
調査の可能性 自主調整を行った年度にも税務機関は特別納税調査を行う権限を有するが、実務上、あらためて正式調査が行われる可能性は必ずしも高くない。 一度移転価格調査が行われ課税された年度に対しては、移転価格調査は行われない。
以降年度への影響 一度自主調整を実施した企業には、毎年同様の結果および自主調整が求められる可能性。 追跡管理期間が廃止され、継続的に管理監督されることに。
相互協議の可能性
(二重課税の排除)
なし あり

(出所)セミナー資料

コンサルの役務もPE認定される可能性

武漢市国税局と地税局の情報データベースが一本化されたことで、当局による出張者のPE調査も厳格化している。「PE(Permanent Establishment)」とは「恒久的施設」を意味し、「事業を行う一定の場所」と定義される。一般的に事業の管理場所や事務所、固定施設、建設工事現場などがPEに当たるが、多くの日系企業が当てはまるコンサルティングなどの役務の提供もPEに当たる可能性がある点は注意が必要となる。なお、日中租税条約において「役務提供PE」は、「一方の締約国の企業が他方の締約国内において使用人またはその他の職員(独立の地位を有する代理人を除く、注1)を通じてコンサルタントの役務(注2)を提供する場合には、このような活動が単一の工事(プロジェクト)または複数の関連工事(注3)について12カ月の間に合計6カ月を超える期間行われるときに限り、当該企業は当該他方の締約国内にPEを有するものとされる(注4)」と規定されている。

湖北省内では、ある非居住者企業が中国居住者企業(中国現地法人)に技術支援のため人員を派遣し、居住者企業がその対価としてサービス料を支払ったところ、当局が税務検査に動き、個人所得税を追徴するといった事例があった。当該非居住者企業は、本件は中国国内においてPEを構成していないと認識していたため、技術支援プロジェクトの出張者の個人所得税を申告していなかった。しかし、これまで国税局と地税局が別々に税金を徴収し、別々に管理していたデータが一本化されたことで、こうした申告漏れを発見しやすくなった。

PE認定を受けた場合は、PEに帰属する所得に応じて企業所得税や個人所得税が徴収される(表3参照)。日系企業は、自社が関わるプロジェクトがPEを構成するか確認を行う必要があり、またPEを構成する場合は出張者の所得に関するデータを本社から適宜入手する必要がある。

表3 PE認定を受けた場合の課税関係
税種 PEあり PEなし
増値税
〔および付加税費(*1)〕
中国国内での役務提供に係る売上額に対して課税される
企業所得税 PEに帰属する所得に対して課税される 課税なし(理論上)
個人所得税 中国勤務日数に応じてPEが負担すると見なされる所得について課税される〔短期滞在者の免税規定(*2)の適用なし〕 短期滞在者の免税規定(*2)の適用要件を満たした場合、非課税となる

(*1)増値税と併せて、都市維持建設税、教育費付加などを徴収。これらの付加税費は仕入税額控除の対象とはならない。
(*2)短期滞在者の免税規定の適用要件は次のとおり(日中租税条約第15条2項)。

  • 中国滞在日数が暦年で183日を超えないこと
  • 報酬が中国国外の雇用主などから支払われること
  • 中国にあるPEなどが報酬を負担していないこと

(出所)セミナー資料

(注1)派遣元企業の社員、あるいは派遣元企業に雇用され、その指示に従い締約企業にコンサルタントの役務を提供する人。

(注2)工事、建設あるいは企業の生産技術の改造、経営管理の改善および技術の選択、投資プロジェクトの実行可能性分析および設計方案の選択について提供するコンサルティングなどを含む。

(注3)同一企業が従事する、事業関連性または連続性を有する複数のプロジェクトをいう。複数のプロジェクトの関連性を判断する際には、以下の要素を考慮しなければならない。

  • 単一のマスター契約に含まれているか。
  • 異なる契約に基づくものである場合、それらは同一の者または関連者と締結されたものか。前のプロジェクトの実施は後のプロジェクトの実施の必要条件となるか。
  • 同じ性質を有するか。
  • 同一の者により実施されるか。

(注4)日中租税条約第5条5項を参照。

(片小田廣大)

(中国)

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