北部経済は観光が牽引し改善-タイの地方経済(3)-

(タイ)

バンコク発

2018年03月30日

タイ北部は、観光都市として有名なチェンマイを中心に、観光と農業を主要産業とする地域だ。ここ数年の外国人観光客の増加が経済を牽引する一方、未だ農業の就業人口も多い。シリーズの第3回目として、タイ北部の経済を紹介する。

観光がけん引も、空港インフラに課題

北部は、第1次産業の比重が高い経済構造となっている。名目GRPのシェアを見ると、第1次産業のシェアは26%、第2次産業は25%、第3次産業は49%となり、第1次産業の割合が3割近い。

他方、産業別就業人口構成比では、第1次産業従事者は42%、第2次産業は19%、第3次産業従事者は39%となる。東北部と比べ、第1次産業に従事する就労人口が少ないことが特徴だ(東北部は第1次産業従事者が51%)。

こうした結果を踏まえ、JETROバンコク事務所は、北部経済状況に関し、チェンマイ県にある政府機関および日系企業にヒアリング調査を実施した。現地の政府関係者によれば、チェンマイ県は観光業を中心としたサービス業、その他の県は農業を中心とした経済構造を有しているという。特に近年は、中国人などの外国人観光客の増加により、北部経済は改善している。

他方、現地政府が課題と認識しているのは、既存のチェンマイ空港のキャパシティ不足だ。チェンマイ空港は、拡大する利用者数に対して規模が十分でない他、市街地に近すぎるため、空港の24時間運用を行うことができない。こうしたことから、今後さらに多くの外国人観光客を呼び込むため、空港移転が計画されている。

空港移転と鉄道建設に期待

現地政府によると、北部で注目されているインフラ計画は、先述のチェンマイ空港移転計画と、チェンマイ市内の鉄道(ライトレール)建設計画だ。

空港移転計画は、現在のチェンマイ空港を、隣県のランプーン県に移転・拡充するものである。移転されれば、空港の24時間使用が可能になるため、外国との直行便数も大幅に増やすことができる。ただし、ランプーン県の新空港の建設予定地は、チェンマイ市内から離れているため、市内とのアクセスをどう改善するかが今後の課題となろう。

また、現在のチェンマイ市内の移動手段は、ソンテウと呼ばれる乗り合いタクシーが主流だ(注1)。そのため、外国人観光客の市内移動にかかる利便性を向上させるためにも、先述のライトレールの完成が期待される。

投資環境、中国のプレゼンス増加

北部には、チェンマイの隣のランプーン県に、2つの大きな工業団地があり、多くの日系企業は同工業団地に入居している(注2)。入居企業は、主に電子部品を製造する企業だ。製造する部品の多くは、当地から首都バンコク近郊まで、空路やトラック輸送で運ばれ、そこから日本など外国へ輸出されている事例が多い。

現地日系企業によると、北部に進出するメリットは、賃金がバンコク近郊と比べ低いこと、そして人口が多いため、ワーカーの採用が容易であることだ。

ただし、エンジニア人材の質が不十分であることや、従業員の離職率が多い点は、バンコク近郊と同様の課題である。また、駐在員の住環境としては、北部の気候はバンコクより涼しく、渋滞が少ない他、日本食材も市内スーパー等で容易に調達できることから、良好だという。

北部における、外国企業の直接投資額を国別で分析する。従来1位であった日本が2017年に初めて2位に転落し、中国が1位になった。北部経済においても、中国企業の存在感が高まりつつあることがわかる。

観光インフラの利活用に期待

北部には、既に集積のある電子部品産業に加え、チェンマイを中心に有名観光地も多い。現地政府は、こうした潜在力のある観光分野にて、外国企業による投資を増やし、北部経済を更に活性化させる意向だ。

具体的には、外国人向けの観光・生活インフラが既に整っているため、高所得の外国人高齢者向け介護ビジネスなども期待されている。こうした高所得外国人の受入れは、地域の個人消費増加にも貢献するため、タイ政府も歓迎している。

好調な観光業に期待する一方、もうひとつの基幹産業である「農業」を如何に発展させるかが、引き続き北部の課題であろう。

(注1)ソンテウとは、ピックアップトラックの荷台に座席を作り、人を乗せるもの。料金はその都度運転手と交渉制。

(注2)北部の2つの主要工場団地は、Northern Region I・EとSaha Group Industrial Parkである。

(阿部桂三)

(タイ)

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