京津冀地域の対内直接投資額(実行ベース)は増加(北京市、天津市、河北省)-2017年の対中直接投資動向(2)-

(中国)

北京発

2018年03月29日

2017年の京津冀地域の対内直接投資額は、北京市が契約額(前年比52.3%増)、実行額(86.7%増)ともに増加した。情報サービス・ソフトウエア産業の投資額が大幅に増加した。天津市は、契約件数が14.0%減となる一方、実行額は5.0%増となった。河北省は契約額が10.8%増、実行額が15.4%増となった。

北京市:日本の投資実行額は2年連続で増加

2017年の北京市の対内直接投資は、契約額が前年比52.3%増の336億1,100万ドル、実行額が86.7%増の243億2,900万ドルとなった(添付資料の表1参照)。情報サービス・ソフトウエア産業が全体の実行額を押し上げた半面、前年好調であった卸・小売業は減少した。

国・地域別の投資状況(実行額)をみると、1位は香港で前年比3.8倍の214億5,100万ドルと2016年(43.6%減)から大幅増に転じた(添付資料の表2参照)。さらに、構成比は全体の88.2%と2016年(43.1%)から45.1ポイント拡大した。2位はバミューダ諸島で493倍の7億3,900万ドルと急増した。3位のケイマン諸島は86.4%減の3億6,800万ドル、4位の韓国は15.7%減の3億1,900万ドル、5位の英領バージン諸島も85.3%減といずれも前年比でマイナスに転じた。

なお、日本は2.4倍の2億9,600万ドルで6位となった。2015年までは4年連続の減少が続いたが、2016年に増加に転じ、2017年も増加を維持した。

産業別にみると、第三次産業が232億185万ドルで大幅に増加(前年比88.3%増)した。投資実行額に占める割合は、2016年(94.6%)からわずかに拡大し95.4%となった。第二次産業は投資実行額のうち、わずか4.6%であるが、11億1,886万ドル(63.9%増)と増加した。なお、第一次産業は838万ドルで63.6%減であった。

業種別にみると、2016年は卸・小売業が58億4,300万ドルと最も大きかったが、2017年は情報サービス・ソフトウエア産業が11.6倍(131億7,900万ドル)と急増し投資実行額の54.2%を占めた(添付資料の表3参照)。不動産業は3.1倍の大幅増加で20億6,900万ドルとなったほか、交通輸送・倉庫・郵政業は55.0%増の13億8,000万ドルとなった。一方で、卸・小売業は68.9%減の18億2,000万ドル、金融業は62.4%減の3億4,000万ドル、製造業は38.4%減の3億9,300万ドルとなった。

2017年の日本からの投資案件をみると、急速に進む高齢化による需要の高まりなどを反映した介護サービスへの投資が目立ったほか、新エネルギー自動車へのシフトに対応するための自動車関連分野の投資もみられた。また、内販強化のための統括機能の集約・強化の動きもあった。

ニチイ学館の子会社である日医恒基(北京)健康産業と日医(北京)居家養老服務は12月18日、共同運営する認知症特化型施設を北京市内にオープンした。既存の自立者向け養老施設の1フロアの運営を受託する(全個室23床)。サービス提供に当たっては、これまで日本で培ったグループホームの運営ノウハウと経験を生かし、日医北京が展開する介護の専門研修を受け、認知症の症状を正しく理解したスタッフが、一人ひとりに寄り添ったケアを実践するとしている。

本田技研工業の中国子会社である本田技研工業(中国)投資は12月12日、中国IT大手の東軟集団(ニューソフト)傘下のニューソフトリーチの子会社でカーシェアリング事業を手掛けるリーチスターに出資すると発表した 。本田技研工業とニューソフトリーチは協力関係を結び、中国で2018年に発売を予定している電気自動車の開発を進めており、カーシェアリング事業にも協業領域を拡げる。

キユーピーは10月24日、11月に北京市に中国事業の統括会社を設立すると発表した。新会社名は「丘比(中国)」(仮称)。キユーピーは中国に3つの事業会社を有し、マヨネーズやドレッシングを中心とした食品の製造・販売を行っている。中国統括会社の設立により、拡大が進む中国事業全体の経営管理機能を強化する。また、井村屋グループは11月7日、北京市に新会社「井村屋(北京)企業管理」を設立すると発表した。新会社では、中国事業会社全体の資金管理、財務、総務管理、事業戦略策定に関する支援業務などを行う。新会社の設立により、中国事業の一元化に向け、管理業務の集約化と資金の有効活用を図るとしている。

なお、北京市は、より高いレベルでの対外開放を通じ、外資の活用を図る構えを見せている。2018年4月2日には、「対外開放を拡大し、外資利用水準を高めることに関する意見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を公布した。この「意見」では、北京市における高齢者サービス分野への外商投資企業の進出を奨励することなどが示された。さらに、多国籍企業の北京市での地域本部設立や、都市公共サービス施設やインフラ建設および政府調達プロジェクトへの参加をサポートすること、イノベーション分野においても外商投資企業が研究開発費用の税額控除などの優遇政策を適正に享受できるようにすることなどが示された。これらの方針が着実に実施されれば、投資環境が一層改善されることが期待される。

天津市:自動車関連の投資が活発に

2017年の天津市の対内直接投資は、契約件数が前年比14.0%減の951件、実行ベースの投資額は5.0%増の106億1,000万ドルだった(添付資料の表1参照)。天津市商務委員会は2017年の特徴として、外資産業の構造調整が進んだこと、外商投資企業に増資の傾向がみられたこと、主要国・地域からの投資が相対的に安定していたことを挙げた。加えて、政府の各種取り組みにより外商投資の環境がより良好になったと評価した。

同委員会は外資産業の構造調整について、サービス業への投資額(実行ベース)が前年比7.7%増の72億8,000万ドルとなり投資全体の68.6%を占めたと指摘した(構成比は前年比1.7ポイント拡大)。そのうち融資・リース業は7.0%増の29億9,000万ドル、不動産業は5.7%増の6億3,000万ドル、卸・小売業は37.0%増の4億ドルであった。

製造業(中外協力石油・ガス開発プロジェクトを含む)は1.5%増の32億6,000万ドルで全体の30.7%を占めた。うちハイテク製造業は15.2%増の9,532万ドルとなった。

外商投資企業の増資の動きについて、2017年に303社の外商投資企業が行い、その合計(契約ベース)が前年比27.2%増の103億5,000万ドルとなった点を指摘した。

主要国・地域からの投資をみると、香港は前年比12.5%減の58億1,000万ドル、日本は18.3%減の8億1,000万ドル、米国が4.8倍の7億6,000万ドル、ドイツが27.3%増の6億1,000万ドル、台湾が19.1%増の3億7,000万ドル、韓国が48.8%減の2億6,000万ドル、シンガポールが38.3%減の2億4,000万ドル、フランスが4.7倍の2億ドルとなった。

天津市商務委員会は、国務院が2017年1月に公布した「対外開放の拡大・外資の積極的利用に係る若干の措置に関する通知(国発〔2017〕5号)」および8月に公布した「外資増加を促進する若干の措置に関する通知(国発〔2017〕39号)」で示された42の措置を受けて3つの政策を打ち出し、外資の参入規制の緩和、財政的支援、権利保護などの分野で具体的な措置を進め、より良好なビジネス環境を積極的に作り出したとした。具体的な政策としては、「対外開放の拡大・外資の積極的利用に関する実施意見(津開放〔2017〕26号)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」「国務院の外資増加を促進する若干の措置の実施に関する業務計画の通知(津開放〔2017〕2号)」「多国籍企業が地域本部および本部型機構を設立することを奨励する若干の規定(津商務資管〔2017〕15号)」を挙げた。

日系企業の動きとしては、新エネルギー自動車へのシフトに対応するための鉛蓄電池工場の新設や、グローバル市場における需要拡大を見込んだオートマチックトランスミッション(AT)生産会社の設立など、自動車関連が目立ったほか、イオンモールの出店や外食のフランチャイズ展開などもみられた。

GSユアサは1月19日、天津市に自動車用鉛蓄電池工場を新設することを発表した。新工場は天津市南港工業区に位置し、2018年夏ごろの稼働を予定している。新工場では同社の最新技術・最新設備を導入し、環境対応車に搭載される高性能鉛蓄電池を中心に生産増強を行う。また、同市にある既存工場(天津杰士電池)の生産を新工場に移転・集約し、生産の効率化と合理化を推進する。年間の生産能力は最大800万個、投資総額は約175億円、売上高は現在の約2倍を目指すとしている。

アイシン精機は10月31日、天津市にあるAT生産会社、天津エィ・ダブリュ自動変速機に、FF6速ATの組み立てラインを増設すると発表した。2019年4月から生産を開始する見通し。今後のグローバル市場におけるATの需要拡大に対応するとしている。

また、村上開明堂は11月14日、中国100%子会社の嘉興村上汽車配件(浙江省嘉興市)を通じて、天津市に自動車用バックミラーの製造・販売子会社を設立すると発表した。新会社名は「天津村上汽車配件」で、2019年4月に生産を開始する見通しとした。

イオンおよびイオンモールは10月27日、天津市に市内4店舗目となるショッピングモール「イオンモール天津津南」を出店、開業した。永旺商業(北京イオン)が運営するスーパーマーケット「イオン天津津南店」を核店舗とし、天津エリアで最大級となる全9スクリーン・1,650席を有する複合映画館をはじめ、スポーツ施設、アミューズメント施設、約210店舗の専門店などを設ける。なお、延べ床面積は約19万平方メートルとなる。

コロワイドは2月23日に中国の容大餐飲管理(天津市)と中国本土全域を対象にしたマスターフランチャイズチェーン(FC)契約を締結、5月8日には子会社のレインズインターナショナル(レインズ)を通じて中国本土へ進出すると発表した。レインズはFCである容大餐飲管理を介し、5年間で130店舗の「焼肉 牛角」「しゃぶしゃぶ温野菜」の店舗網構築を進めていくとした。

河北省:投資実行額は15.4%増

2017年の河北省の対内直接投資は、契約ベースでは件数が19.8%増の194件、契約額は10.8%増の37億700万ドル、実行額は15.4%増の84億9,000万ドルといずれも増加した(添付資料の表1参照)。

産業別(実行額)でみると、第一次産業は前年比46.4%減の5,579万ドル、第二次産業は12.1%増の68億2,834万ドル、第三次産業は38.6%増の16億538万ドルとなった。

産業別では、投資額(実行ベース)の73.6%を占める製造業が前年比14.3%増の62億5,203万ドルで全体の伸びを牽引した。このほか、不動産業(構成比11.1%)は81.0%増の9億4,601万ドル、情報サービス・ソフトウエア産業は3.5倍の1億5,563万ドル、金融業は12.0%増の6,379万ドルと好調であった。一方、採鉱業(83.0%減)、リース・ビジネスサービス業(60.8%減)、科学研究・技術サービス業(67.8%減)、文化・体育・娯楽業(76.6%減)などは大幅に減少した。

国・地域別の投資状況(実行額)をみると、最大の投資元である香港は前年比37.6%増の47億2,395万ドル、中南米が33.0%増の17億3,318万ドル、米国が24.6%増の4億9,067万ドルだった。日本は前年のマイナスから23.2%増に転じ、3億353万ドルだった。

なお、前年比で減少となった国・地域をみると、EUが13.6%減の4億5,001万ドル、シンガポールが82.7%減の1億251万ドル、オーストラリアが15.1%減の8,570万ドル、韓国が71.9%減の7,985万ドルであった。

河北省に関する日系企業の進出例としては、ベルグアースが12月6日、農業技術・新エネルギー研究開発・農作物の栽培および加工販売などを行う河北銘福隆農業開発と合弁会社を設立した。新会社の名称は「欣璟(北京)農業科技」で、北京市で農事業の企画・運営を行う。ベルグアースは成長戦略の1つでもあるグローバル化の取り組みとして、中国国内で本格的な苗事業を開始する。

(藤原智生)

(中国)

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