生まれ変わる万博会場跡地-ライフサイエンスの研究施設や大学、病院が進出-

(イタリア)

ミラノ発

2018年03月30日

2015年5月1日~10月31日までミラノで「食」をテーマに開催され、参加国141カ国、約2,100万人の来場者を得たミラノ万博だが、その広大な会場跡地の活用が試みられている。その1つに科学技術・ライフサイエンス分野の施設の集積するサイエンス・テクノロジー・パーク転換プロジェクトがある。特に2018年に入ってからプロジェクト化の動きは具体的になってきた。ライフサイエンス分野の研究拠点設立やミラノ国立大学のサイエンス学部の移転、新病院の建設などの計画が進んでいる。

MINDと呼ばれるサイエンス・テクノロジー・パークに転換

万博会場跡地の再開発は、サイエンス・テクノロジー・パークへの転換を目指して実施されている。万博会場開催土地購入と万博後の跡地開発を担当するアレクスポという株式会社が経済財政省、ロンバルディア州、ミラノ市、フィエラミラノ財団、ロー市(万博会場跡地が所在する)などにより設立されている。万博終了後、アレクスポは跡地の開発戦略のガイドラインを2016年に発表、2017年には約100万平方メートルにわたるエリアの開発のマスタープラン作成に関わるアドバイザリー業務の入札を実施し、オーストラリアに本拠地を置く国際的な不動産開発会社であるレンドリースがこれを落札した。2018年3月2日にはアレクスポとレンドリース社は大枠合意を締結、3月26日にはサイエンス・テクノロジー・パークの名前がミラノ・イノベーション・ディストリクト(MIND/Milano Innovation District)と命名され、ロゴも発表された。

研究拠点、学術機関、病院が設立予定

MINDへの進出については、現時点で大きく3つのプロジェクトが進行している。1つはライフサイエンス分野の研究拠点「ヒューマン・テクノポール」の開設がある。同施設は旧イタリア・パビリオン館内に開設される。2月にはドイツ・ハイデルベルクの欧州分子生物学研究所に在籍するイアン・マッタイ氏がヒューマン・テクノポールのディレクターに就任することが報じられた(「イル・ソーレ24オーレ紙など」)。技術者や管理部門が先行して入居し、2018年内には「ヒューマン・テクノポール」として活動できる状態にさせる。2024年には科学者・研究者・スタッフあわせて1,500名規模の陣容となる予定である。

2つめは国立ミラノ大学の科学分野の学部の移転がある。2018年3月6日に同大学の理事会は、現在ミラノ市内にある学部を万博跡地に移転することを正式に決定した。移転コストが抑制できる、資金調達のため既存施設を売却せずに済むこと、鉄道駅、地下鉄駅、駐車場全てからの近接性(徒歩10分圏内)、15万平方メートル以上の土地が確保でき、騒音・振動・電磁波の問題がないなどの条件が考慮されたことが移転を決定する要因となったと現地メディアは報じている(「ラ・レプブリカ紙」)。アレクスポは同学部の移転により、この地域に1日あたり約2万人の人の流入を見込む。

3つめは病院の設立計画がある。ミラノ市のガレアッツィ整形外科専門病院は、2018年2月14日に万博跡地に新病院の建設計画を公表した。万博跡地の中でも地下鉄駅や鉄道駅に近いカシーナ・トリウルツァ・エリアの土地購入の仮契約を2017年8月にアレクスポと締結しており、新病院は地上16階、地下1階、総床面積は15万平方メートル、ベッド数は589床を予定する。建設は2018年5月から開始され、2021年に完成される予定である。報道によれば建設費用は約2億ユーロを見込む。

イタリア経済を牽引する都市であるミラノの近郊に残された広大な土地の有効活用は非常に大きな課題であったが、その活用にようやく具体的な形が見え始めた。イタリアは北部から中部にかけて医薬品・化学品製造業の集積がみられ、確固たる国際競争力を有している。MINDにはこうしたイタリアの強みを下支えし加速させる役割が期待されている。

(佐野さつき、山内正史)

(イタリア)

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