有力共和党上院議員が鉄鋼・アルミの関税引き上げを批判-NAFTA再交渉の行方についても懸念-

(米国)

米州課

2018年03月12日

共和党の上院院内幹事のジョン・コーニャン議員と上院エネルギー資源委員会委員長のリサ・マコウスキー議員は、テキサス州ヒューストンで開催されたエネルギー業界のイベントに参加し、トランプ大統領が3月8日に署名した鉄鋼・アルミ製品に対する新たな輸入関税措置、また現在行われている北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の行方について懸念を表明した。他方、トランプ政権が米国内で進めているエネルギー分野での規制緩和策については評価した。

アラスカ州はLNG輸出ターミナル建設で5億ドルのコスト増に

トランプ大統領が3月8日署名した鉄鋼・アルミ製品に対する新たな輸入関税措置について、ヒューストンで開かれたCERAWeek2018(注1)で3月9日、共和党上院院内幹事のコーニャン議員(テキサス州選出)と上院エネルギー資源委員会委員長のマコウスキー議員(アラスカ州選出)は、ともに強い懸念を表明した。

コーニャン議員は「トランプ大統領は選挙期間中からポピュリスト的な発言を繰り返してきた。関税引き上げ措置は、米国と貿易相手国の通商関係を阻害する。貿易措置発動について、大統領はより慎重に(surgical)進めるべきだ」と語った。他方、マコウスキー議員は「アラスカ州内ではパインプラインや液化天然ガス(LNG)の輸出ターミナル建設が進んでおり、計画中の輸出ターミナル建設だけでも5億ドルのコスト増大をもたらす。今回の鉄鋼・アルミ関税引き上げ措置は、エネルギー業界のみならず同盟国にも間違ったメッセージを伝えることになる」と述べた。

テキサス州はメキシコと、アラスカ州はカナダと広大な国境で接し、NAFTAによる貿易や投資の利益を享受している。コーニャン議員は「NAFTAが発効し24年が経過しており、時代の変化に対応しての見直しは必要だが、米国ではカナダとの貿易で800万人、メキシコとの貿易で500万人の雇用が創出されている」とし、NAFTA再交渉でカナダやメキシコから有利な条件を引き出すために、NAFTAからの離脱をちらつかせる、トランプ政権の姿勢に懸念を表明した。

コーニャン議員は「ホワイトハウスでは、ゲーリー・コーン国家経済会議委員長が辞任を表明し、通商問題で多くの間違った考えを持ち込んでいるピーター・ナバロ通商製造業政策局長の発言が強まっている点は、憂慮すべきだ。通商関係を貿易赤字だけで論じようとするトランプ大統領の見解を、側近は変えていくべきだ」と批判した。マコウスキー議員も「これまでNAFTAの枠組みで米国が長年築いてきたカナダとメキシコとの通商関係の維持拡大を、トランプ政権は進めるべきだ」と述べた(注2)。

エネルギー分野での規制緩和は評価

一方、両議員らは、トランプ政権が進めているエネルギー分野での規制緩和が、米国のエネルギーの安全保障を強化しているとして、エネルギー分野での規制緩和策を評価した。エネルギー省のリック・ペリー長官は3月7日、CERAWeekで登壇し、「オバマ前政権が進めてきた規制が米国経済の繁栄を阻害してきた。米国の天然資源を古い規制から解き放ち、イノベーションや次世代の技術でエネルギー産業の発展を促していく」とする「新しいエネルギー・リアリズム」を強調した。

コーニャン議員は、米国が外国へのエネルギー依存から脱し、国内の豊富な石油・天然ガス資源の生産と輸出が順調に進んでいること、国際エネルギー市場で米国が十分な競争力を備え「エネルギー・ドミナンス」が確立されつつある、と指摘した。特に選挙区のテキサス州では主力のエネルギー産業が好調なため、州の失業率が2017年11月には4%を切るなどこの40年間で最も低い水準に下がっていることを挙げ、「テキサス州の経済は完全にテークオフしている」と述べた。

マコウスキー議員は、アラスカ州の失業率は2017年12月で7.2%と依然高い水準にあるものの、同州北東部に広がる国立北極圏野生生物保護区(ANWR)での石油天然ガス開発が2017年5月にトランプ政権で解禁となったことに触れ、「ANWRでは推定で120億バレルの石油資源が存在する。環境評価など幾つものハードルがあり、実際の生産開始までさらに時間を要するが、これまで40年間続いてきた規制からアラスカ州はようやく解き放たれる」と期待感を示した。アラスカ州選出のダン・サリバン上院議員(共和党)もCERAWeek初日に登壇し、「内務省は早ければ、2019年にはANWR内の石油天然ガス鉱区のリースを開始するだろう」との見通しを示した。同地区での開発には、コノコフィリップスなど複数の石油大手企業が関心を示している。

写真 CERAWeekのダニエル・ヤーギン主宰(左)と語るマコウスキー(中央)、コーニャン(右)両上院議員(ジェトロ撮影)

(注1)エネルギー版のダボス会議といわれ、2018年はBP、シェルなどオイルメジャーのトップ、産油国の閣僚、OPECや国際エネルギー機関(IEA)の事務局長らエネルギー業界の重鎮を迎えて、3月5~9日にテキサス州ヒューストンで開催された。

(注2)米国エネルギー省のリック・ペリー長官、カナダのジム・カー天然資源相、メキシコのペドロ・ホアキン・コールドウエル・エネルギー相の3閣僚は3月7日、CERAWeek2018で登壇し、NAFTA域内のエネルギー協力、貿易投資障害措置の撤廃に引き続き取り組んでいくと強調した。

(木村誠)

(米国)

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