事業は拡大基調も賃金上昇や人材不足を懸念-2017年度広州日本商工会アンケート-

(中国)

広州発

2018年03月06日

広州日本商工会は2017年11~12月に、法人会員625社(2017年11月現在)に対し、事業方針や経営上の課題などに関するアンケートを実施した(有効回答82社)。前年に引き続き自動車関連を中心に業績が好調な企業が多く、今後、事業を拡大するとの回答が半数を占めた。一方で、賃金上昇や人材不足を懸念する企業が依然として多かった。

内販比率50%以上の企業が8割超

本アンケートは毎年、オンラインで実施される。今回は82社から有効回答を得た。回答企業の割合を業態別でみると、生産現地法人が52%、販売現地法人が23%、駐在員事務所が2%、その他は18%だった(ほかに、香港現地法人による委託加工4%がある)。業種別(複数回答可)では、自動車関連が36%と最も多く、電気・電子(17%)、貿易・流通(11%)が続いた。

自動車産業など内需型産業が多く立地する広州市とその周辺では、以前から売上高に占める国内販売比率が高い。アンケートによると、内販が50%以上を占める企業数は、60社(83%)に上った。

内販の好調を受け約5割が事業拡大

今期の業績予想については、売上高が「大幅拡大」すると回答した企業は10社(12%)で、「多少増加」(44社、54%)と合わせると6割以上を占めた。一方、「大幅減少」(2社、2%)と「多少減少」(9社、11%)と回答した企業は、合わせて1割強にとどまっている。

今後の事業展開の方向性については、この設問に回答した全81社のうち、「事業を拡大する」と回答した企業は40社(49%)で、「現状維持」と回答した36社(44%)と合わせると大半を占めた。「縮小」と回答した企業は5社(6%)にとどまった。

事業拡大の内容をみると、「駐在員・社員を増強」が貿易・流通や自動車関連を中心に17社(32%)に上った。「生産ライン増設」と回答した企業は、「工場増設」も合わせると、電気・電子、自動車関連を中心に19社(35%)となった。「その他」(13件、24%)では、「倉庫増設」「新規分野への参入」「販売品目の増加」といった回答が挙がっている。

事業拡大の理由としては、回答した計49社のうち、「中国市場での販売好調」が19社(39%)と最も多く、「納品先での生産拡大」(15社、31%)、「市場開放進展で商機拡大」(9社、18%)が続いた。

中国企業との取引拡大の志向続く

今後の戦略は、「中国企業・市場にも販路を広げる」との回答が39社(27%)と最も多かった。「中国企業からの調達」も17社(12%)と多く、中国企業との取引強化を重視する傾向は従来と変わりない。近年の人件費上昇を受け、「(製造工程の)自動化を進める」との回答も31社(21%)と多かった。「その他」(21社、15%)では、「業務内容のシステム化および効率化」「中国人スタッフの積極登用」などのコメントが出ている。

将来の移転先として関心のある国・地域は、「広東省珠江デルタ域内」(37社、37%)が依然多く、次いで重慶市や四川省成都市など「その他中国」(17社、17%)が続いた。自動車産業の集積が進んでいる「湖北省」と回答した企業は8社(8%)だった。「その他諸外国」(10社、10%)の内訳としては、ベトナム、インドネシアを複数の企業が挙げていた。

多くの企業の税務課題は「移転価格」

税務に関する経営上の問題としては、前年と同様に「移転価格」(28社、28%)を挙げる企業が最も多かった(図1参照)。税務当局による取り組み強化を受け、製品を従来の価格水準で輸入したにもかかわらず価格調査を受けた、との回答も寄せられた。

次に、「外国人への社会保険納付義務」(20社、20%)と回答した企業が多かった。「納付済みの保険料を返金してもらうには、納付から1カ月後に本人が窓口の銀行に出向く必要があるが、既に本人が帰国し返金を受けられない」とのコメントがあった。

図1 経営上の問題(税務)

税関に関する問題については、「通関に時間がかかる」(24社、19%)と回答した企業が最も多かった(図2参照)。春節、国慶節など大型連休前は特に時間がかかる。「広州空港では貨物検査に長時間を要し、引き取りに2日かかる」とのコメントもあった。

ほかには、「化学品の取り扱い規制強化」(20社、16%)、「税関手続きの煩雑さ」(19社、15%)、「通達・規制内容の周知徹底が不十分」(18社、14%)と回答した企業が多かった。「税関手続きの煩雑さ」では、「保税部材の管理が極めて煩雑」「税関側の主張する根拠が不明瞭」などのコメントが見受けられた。通達・規制については、税務当局の担当職員により解釈が異なるとの不満が出ている。

図2 経営上の問題(税関)

労務は「賃金の上昇圧力」が6年連続で最多

労務に関する問題では、「賃金の上昇圧力」(58社、40%)が6年連続で最多となっている(図3参照)。以下、「募集しても必要な人数が採れない」(33社、23%)「労働法への対応」(22社、15%)「定着率の悪化」(20社、14%)と続いた。

図3 経営上の問題(労務)

賃金上昇に関しては、「業績悪化時も平均昇給率にならい賃上げを要求される」「賃上げしないと離職が発生」「会社が規定する賃金で人材を採用できない事例が増加」などの声が聞かれた。

「募集しても必要な人数が採れない」や「定着率の悪化」と回答した企業からは、「女性を採用できない」「営業スタッフや技術者の離職が多く、こうした人材の採用が困難」「度重なる技術者の離職で、技術力を向上できない」「優秀な日本語人材の応募が減少」などのコメントが出ている。技術者など専門職が不足する点については、教育機関での人材育成不足を懸念する声もある。

「労働法への対応」と回答した企業からは、「意欲のない社員の解雇が困難」「妊娠した社員の休職や時短で業務が回らない」との回答があった。

従業員への対応については、前年とは逆に、「雇用削減」(47社、56%)が「雇用維持」(24社、29%)を上回った(図4参照)。後者については、雇用を維持するものの、「昇給を抑制する」「残業を削減する」とのコメントが散見された。

図4 従業員への対応

その他の経営上の問題点については、「調達コストの上昇」と「限界に近づきつつあるコスト削減」(いずれも35社、24%)が最も多かった(図5参照)。次いで、「売掛金の回収」と「環境規制の厳格化」がいずれも24社(16%)だった。中国では、2015年1月の改正環境保護法に続き、2018年1月から環境保護税法が施行されている。

図5 経営上の問題点(その他)

(粕谷修司)

(中国)

ビジネス短信 63599c7db3206f07