移民制限による企業の成長抑制を懸念-助言委が労働市場への影響を中間報告-

(英国)

ロンドン発

2018年03月29日

移民助言委員会(Migration Advisory Committee:MAC)は3月27日、欧州経済領域(EEA)出身者を移民として制限することによる英国労働市場への影響に関する中間報告書を公表した。移民制限は経済のあらゆる分野、特に低技能者の雇用への影響が大きいという。調査対象の多くの雇用主からは、EEA出身者へのアクセス制限が企業の成長を抑制し、企業のEUへの移転につながると懸念する声が上がった。

新たな移民システム設計の基礎情報

移民助言委員会のレポートは、2021年以降の英国のEU離脱移行措置後の新しい移民システムを設計するための基礎となる情報提供を目的とした中間報告で、9月に最終レポートが出される予定だ。MACは根拠に基づく情報提供の照会(call for evidence)を行い、417の企業や団体からの回答に基づき移民制限の影響を分析している。

報告書によると、EEA出身者の英国での給与には、EU加盟により2004年以降に新たにEEAメンバーになった国とそれ以外で大きな差がある。西欧などの2004年以前のEEAメンバーからは、高技能労働者が多く、英国出身者よりも給与が12%高い。一方、中・東欧など2004年以降にEUに加盟した国からの移民は、低技能労働者が多く、給与は英国出身者に比べて27%低い。この差は職種などの影響が大きいためで、同じ技能を有する人材の賃金で比較するとEEA加盟国からの移民と英国出身者ではほぼ同じだった。一方、2004年以降にEEAメンバーになった国からの移民と英国出身者では、低技能の職種で賃金は4%低い傾向がみられたという。移民制限は経済の全ての分野に影響を与えるが、特に低技能者の雇用への影響が大きいという。多くの雇用主は、EEA出身者へのアクセス制限が企業の成長を抑制し、EUへの移転につながるとしている。MACは、移民制限がどのような結果をもたらすかを明確にすることが重要とし、移民の制限は、雇用全体や生産の成長を抑制する可能性が高いとの見方を示した。

MACは、国民統計局(ONS)のデータを基に人口の変化について、今後EEAからの移民数の純増がゼロになると仮定した場合、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドで人口増加が止まり、今後20年間で減少に転じると予測。イングランドでは人口増加は続くものの、北部の一部地域ではスコットランドなどと同じく人口減に転じるとしている。

最終レポートでは、賃金、失業、物価、生産性、訓練、公共サービス、公共財政、地域の団結、福祉など、さまざまな分野への影響の考察が盛り込まれる予定だ。

(鵜澤聡)

(英国)

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