実行金額は国・地域別で引き続き首位(香港)-2017年の対中直接投資動向(11)-

(香港、中国)

香港発

2018年03月29日

中国側の統計によると、2017年の香港の対中直接投資は、契約件数が前年比41.7%増の1万8,066件、実行金額が16.0%増の945億1,000万ドルと、いずれも2年ぶりに増加した。対中直接投資全体に占める香港のシェアは、契約件数、実行金額いずれも過半を占め、国・地域別で引き続き1位となっている。

契約件数が約4割増加

中国商務部によると、2017年の香港の対中直接投資は、契約件数が前年比41.7%増の1万8,066件、実行金額が16.0%増の945億1,000万ドルと、いずれも2桁の伸びを示した(添付資料の表1、図参照)。特に契約件数の伸びが目立つ。対中直接投資全体に占める香港のシェアは、契約件数で50.7%(2016年は45.7%)、実行金額では72.1%(64.7%)とシェアは上昇、国・地域別で引き続き1位となった。

なお、2018年3月の時点では香港特別行政区政府(以下、香港政府)は、2017年の対内・対外直接投資統計に関するデータを発表していない(最新は2016年時点の統計)。

小売り・宝飾業界は、新たな出店戦略により商機をうかがう

2017年の香港企業の個別の対中直接投資動向をみると、中国経済の回復に加え、中国国内の販売チャネルや消費志向の変化、所得水準の向上などの市場環境の変化により、新たな店舗戦略を模索する動きがみられる(添付資料の表2参照)。

例えば、「sasa」ブランドの化粧品店を展開する「莎莎国際」は、2017年4~9月の半年間に6店舗を閉鎖し、新たに4店舗を開店した。同社は「電子商取引市場が急拡大する一方、店舗賃料は下落している。地方都市の不採算店舗の閉鎖を進める一方で、各省の省都を中心に新規出店し、経営資源の最適化を行った。また、他社との差別化のため、店舗レイアウトや商品ディスプレー、ラインアップに工夫を凝らした新コンセプトの店舗を導入した」としている。

宝飾品販売大手の「六福」は、17年4~9月に直営店、代理店あわせて47店舗を開店した。同社は今後の見通しについて、「中間所得者層が増加しており、中長期的なマーケットの先行きを楽観視している。今後は商品ラインアップの充実と店舗戦略の見直しを図り、市場シェアの拡大を目指す」とコメントしている。

宝飾製造・販売を手掛ける「周大福」は、2017年4~9月に、中国で60店舗を閉店する一方で、新規に172店舗を出店した。同社は、2017年上半期のビジネス環境について、「(これまで同社が中国で主に出店してきた)百貨店の閉鎖・統合の動きに歯止めがかかり、中国の宝飾市場が緩やかに回復している」と指摘している。

不動産・金融業界も積極的に投資

不動産・金融業界でも香港企業の積極的な投資が目立っている。不動産コングロマリットの「新鴻基グループ」は、2016年7月から2017年6月までに、上海環貿広場(IFC)や杭州万象城(MIXC)など、中国本土の6都市で計11件のオフィス、商業、住宅施設の建設プロジェクトを完了した。

同じく不動産コングロマリットの「九龍倉グループ」は、2017年9月に重慶市の重慶国際金融中心(IFS)内にショッピングモールとホテルを開業した。2018年には湖南省長沙市で長沙IFSを開業する予定であるほか、2019年には江蘇省蘇州市で蘇州IFSを開業予定である(開業時期の詳細は未定)。

金融分野では、中国証券監督管理委員会(CSRC)が2017年6月、香港上海匯豊銀行(HSBC)と深セン前海金融控股によるジョイントベンチャーの証券会社(HSBC前海証券有限責任公司(HSBC前海証券))の設立を認可した事例が挙げられる(HSBCがHSBC前海証券の株式51%を所有)。香港資本の金融機関に対し中国本土での出資比率50%超の合弁証券会社の設立を認めた「CEPA第10次補充文書(2013年8月29日調印)」を活用した初めての投資案件となった。

物流・鉄道関連企業はネットワークを拡大

物流業界では、サードパーティー・ロジスティクスサービス(3PL)を提供する「ケリー・ロジスティクス」が2017年7月、鉄道貨物輸送を主力とする「蘭州捷時特物流」の株式の50%を取得すると発表した(取得額は未公表)。中国政府が推進する「一帯一路」構想の下、蘭州捷時特物流に出資する鉄道コンテナ輸送会社の「中鉄集装箱運輸」の輸送ネットワークを通じて、中国と中央アジア、欧州を結ぶ鉄道輸送事業を一層拡大する予定である。

鉄道業界では、香港で鉄道事業および沿線の不動産開発を手掛ける「香港鉄路(MTR)」(香港政府が同社株式の過半数を保有)が2017年6月、浙江省杭州市の地下鉄5号線事業の運営権を取得した。杭州市地下鉄を運営する「杭州市地鉄」と共同で設立したジョイント・ベンチャー(JV)による総投資額は109億元(約1,853億円、1元=約17円)に上り、同JVを通じて地下鉄5号線事業にかかる電機・機械システムへの投資および建設に携わる予定である。

在香港中国企業による再投資の動きも

香港地場企業の他に、香港に拠点を置く中国系企業による対中投資の動きもみられる。中国の国務院国有資産監督管理委員会(以下、国資委)が管理する中央国有企業で、港湾・道路管理、海運業、物流業、金融業、不動産開発などを手掛け、香港証券取引所に上場する「招商局港口(招商局)」は2017年9月、傘下の「深セン赤湾港航」が、広東省中山市で海上貨物輸送業を営む「中山港航」の株式51%を4億8,500万元で取得すると発表している。同社は「中山港航」の株式買収を通じて、広東省内の中山港、神湾港などの3つの港湾で計23カ所のバースの経営権を取得することとなる。

同じく国資委が管理する中央国有企業「華潤グループ」は2017年3月25日、陝西省西安市の現地政府などと「一帯一路」構想の陸路の起点である同市の「西安スポーツセンター」、「西安中央文化・商業地区」および「西安シルクロード国際会議展示センター」のプロジェクトに対し700億元を投じる合意文書に調印した(「中新網」2017年3月25日)(うち「西安シルクロード国際会議展示センター」は2017年11月に工事開始、2020年に完成予定)。「これらは『一帯一路』構想に基づく国家・国際基準のプロジェクトで、中国北西部および西安市のコンベンション産業にとって新たな原動力となる」と紹介する報道もある。

今後はベイエリア計画に注目

香港政府は2017年6月28日、中国商務部との間で、中国本土と香港の経済・貿易緊密化協定(CEPA:2004年1月発効)の枠組みの下、「投資協定」と「経済技術協力協定」を締結した。「投資協定」では、石油・天然ガス開発、船舶・航空機製造、漢方薬製造などの26 項目を除いたサービス業以外の分野への投資について、香港に最恵国待遇を与えるとしている。また、経済技術協力協定では、(1)「一帯一路」プロジェクトへの香港の参画への支援に加え、(2)広東省・香港・マカオ間の経済連携協力を強化する「広東・香港・マカオグレートベイエリア」(以下、ベイエリア計画)の建設を共同で進め、香港は金融、投資管理、貿易の監督管理などの方面で優位性を生かすこと、(3)本土・香港間の金融・文化・中小企業の提携をより深め、知的財産権など12 の重点分野で協力することの3点が盛り込まれている。

加えて、中国の国家プロジェクトである「一帯一路」戦略やベイエリア計画が本格始動しつつあり、香港政府もこれらプロジェクトに積極的に参画する姿勢を強めている。

香港の経済紙「香港経済日報(3月17日)」は、3月16日に香港大手コングロマリット企業である長江和記実業の会長の座を退くと発表した李嘉誠氏について、「2015年に中国本土から資産を大量に引き上げ、批判を浴びた」としながらも、「香港および自社グループにとって『一帯一路』戦略とベイエリア計画は大きなチャンス」とする同氏の見解を紹介している。

中国における投資規制の緩和、投資環境の整備などが進めば、香港地場企業に加え、前述の招商局や華潤グループのように香港に拠点を置く中国系企業や外資系企業による対中投資の動きが更に加速する可能性がある。

(吉田和仁)

(香港、中国)

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