自動車国産化成功の次は-インドの投資環境の現状と課題(2)-

(インド)

アジア大洋州課

2018年03月30日

インドの乗用車市場は2017年に世界第4位、二輪車は世界最大の市場に成長し、部品を含めた自動車の輸出拠点としても活用される。他方、携帯電話の普及も急速に進んでおり、契約件数は11億件を超えた。しかし、完成品や部品の大部分が中国からの輸入であり、政府は輸入依存体制の脱却を目指す。連載の2回目は、自動車と携帯電話にフォーカスを当て、その産業構造や貿易の実態などについて分析する。

世界最大の二輪車市場に

インドの自動車市場は、1983年のスズキのインド進出を契機に近代化がスタートし、今や内外の自動車メーカーが群雄割拠する一大市場に成長した。二輪車市場は2,000万台市場を目前とする世界最大市場だ。一方、乗用車市場は2017年に400万台(乗用車、商用車合計)の大台を突破し、ドイツに次ぐ世界第4位の市場に成長した。ただし、乗用車の販売台数は中国の7分の1程度で、人口規模からは見劣りする。今後、インドの二輪車ユーザーが乗用車へ乗り換える日が来ることを踏まえると、市場の拡大の余地は大きいといえよう。

完成車、部品の輸出拠点へ

インドの自動車部品市場は電子機器などを中心に輸入に頼る部分が残るが、2010年以降、輸出金額の伸びとともに自動車部品の貿易赤字幅は縮小傾向にある。自動車部品の国別輸入シェアを見ると、2000年当時は日本からの輸入が55.2%と非常に高かったが、その後はマルチ・スズキなど現地進出日系企業を中心にコスト削減を狙った現地調達率向上の目標の下、輸入は概ね減少の一途を辿る。他方、韓国や中国、ドイツなどからの輸入のシェアは年々拡大している。政府は自動車部品の国産化を進めるため、関税引き上げなどの輸入代替策も講じている。2018年2月に発表された2018年度予算案でも、自動車部品の関税(7.5%または10%)が一律15%に引き上げられることになった。加えて、トラックやバス用のラジアルタイヤの関税も10%から15%に引き上げられた。交換用を中心に安価な中国製の輸入が急増していたが、国内タイヤメーカーにとっては追い風といえる。

一方、自動車部品の輸出は2000年に比べて15倍に拡大しており、2016年には40億ドル規模に達した。輸出先も米国やドイツ、トルコなどの欧米、ブラジルやメキシコなどの中南米など多岐に亘る。インドは完成車の輸出にも取り組む。インド自動車工業会(SIAM)によると、2016年の乗用車の輸出台数は76万台で、輸出総額は64億ドル。輸出先としてはメキシコ向けが最大で23.9%、これに南アフリカや英国、イタリア、サウジアラビアなどが続く。一方、二輪車は、輸出総額は16億ドルと見劣りするが、台数ベースでは234万台と乗用車を大きく上回る。近隣の南西アジア諸国やアフリカ、中南米への輸出が目立つ。

インドにも電気自動車化の波

インドの自動車業界でも、世界的な潮流である電気自動車(EV)化の流れが生まれている。インドでは都市部の大気汚染が深刻化しており、政府はガソリンやディーゼルの消費を無くすことで、大気汚染の抑制に繋がると見込まれる。電力不足などインフラ整備の遅れから課題は多いが、スズキ、東芝、デンソーの3社がインドでリチウムイオン電池パック製造のための合弁会社を設立することを発表しており、EV化に向けた動きは日系企業でも始まった。

現地報道では、2018年2月に開催されたAuto Expo2018の開幕に合わせ、自動車業界を所管するインド重工業・公企業省のギーテ大臣が声明を出し、政府として新たな自動車政策を策定する方針であるという。他方、電力省のR.K.シン大臣は、2030年までにインド国内の自動車の30%をEVにすべきだと言明した。政府はこれまで、同年までに国内で販売する自動車の全てEVにするという野心的な方針を出していたが、業界の声などを受けて現実的な目標設定にかじを切ったといえる。

中国製に大きく依存する市場構造

インドでは携帯電話市場が急速に拡大しており、国際電気通信連合(ITU)によると、携帯電話の契約件数は11.3億件となり、中国(13.6億件)に次ぐ世界第2位の市場となった。ただし、市場に出回る携帯電話やスマートフォンの大部分が輸入だ。2016年の輸入統計(HSコード2桁ベース)を見ても、鉱物性燃料(27類)や貴石類(71類)に次いで、電気機器類(85類)が第3位に入り、その40%が「携帯電話の完成品や部品(8511)」で、国別では中国からの輸入が7割を占める。

政府による輸入代替策の強化と国産化の進展

携帯電話の貿易構造にも新たな変化が起きている。政府が携帯電話の国内生産を促すため、関税を引きあげる措置などを講じているのだ。市場で高いシェアを持つサムソン(韓国)、レノボ(中国)、マイクロマックス(地場)、小米(中国)などは既にインドでのスマートフォン生産を開始。2017年にはアップル(米国)もインドでアイフォンの委託生産を始めた。最大の輸入相手国である中国からの携帯電話(完成品)の輸入は2014年の62億ドルをピークに減少している一方で、携帯電話の部品の輸入は2014年以降増加傾向を示す。2016年には部品の輸入額(47億ドル)が完成品の輸入額(39億ドル)を初めて上回った。

2018年度の予算案でも政府の携帯電話に対する輸入代替政策は一層強化され、携帯電話の完成品に課せられる関税は15%から20%に引き上げられた。加えて注目すべきは、本予算案で携帯電話の部品に係る関税も引き上げられたことだ。部品に係る関税は7.5%または10%だった関税だったが、一律15%となった。ただし、インドでは携帯電話の組み立てが定着し始めたレベルであり、電子部品は輸入に依存しているため、短期的には部品の輸入コストの上昇をもたらすことが危惧される。一部報道では、今回の部品関税の引き上げによりインドで生産するアイフォンの値段が2.0-3.6%引き上げられたとされる(NNA、2018年2月7日付)。

日系企業は商機として期待

インドにおける携帯電話の本格的な国産化の流れを見越し、日系企業もこれを商機と捉えた動きも見え始めている。旭硝子はインドでスマートフォン向け強化ガラス製品の拡販を進める。同社は既にインド地場の携帯端末メーカーに納入実績があり、今後は中国や韓国などを含む全ブランドへの売り込みを図る予定だという(NNA、17年9月29日付)。中国で地場や外資の携帯電話メーカーに電子部品を納入していたある日系企業は、「インドでの携帯電話の組み立てが本格化することを見越し、今後はインドでの営業活動も強化する方針」とコメントしている。

(西澤知史)

(インド)

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