クチンスキー大統領辞任へ、後任はビスカラ第1副大統領の予定-国会での罷免投票前日に急きょ辞意表明-

(ペルー)

リマ発

2018年03月22日

ペドロ・パブロ・クチンスキー大統領が3月21日、テレビ放送を通じて一連の政治的混乱を収束させるために大統領の職を辞任する旨を表明した。22日の国会において、2017年末に続き2度目となるクチンスキー大統領の罷免を問う投票が行われる予定だったが、これに先立ち辞任を決意したかたちだ。憲法に基づき、23日にビスカラ第1副大統領が大統領に就任する予定。

ケンジ・ブジモリ議員による罷免賛成派の票買収疑惑が引き金に

クチンスキー大統領の辞任は、3月20日午後のケンジ・フジモリ議員による最大野党フエルサ・ポプラル党の罷免賛成派議員の票を買収する疑惑が報じられたことが発端となった。同党のプーノ州選出のモイセス・ママニ議員が、ケンジ議員、ほか2人のケンジ派の国会議員との会議の模様を隠し撮りした動画がニュースで報じられた。内容は、ケンジ議員から22日に予定されていた罷免投票に反対することを条件に、プーノ州に運輸通信省管轄の公共事業を実施する案があるというもの。ママニ議員に対して、罷免決議投票において反対票を投じるよう持ち掛けたことが明るみに出た。

この報道を受けて3月20日夜、ブルーノ・ジウフラ運輸通信相はメルセデス・アラオス首相兼第2副大統領と共に緊急記者会見を開いた。ジウフラ氏は公共事業の実施と引き換えに票を買収した事実はないと釈明したものの、翌21日朝、ママニ議員と同氏の通話録音記録が新たに報じられた。同会話の中で、クチンスキー大統領の私邸で打ち合わせることをジウフラ氏からママニ議員に提案する内容が明らかになり、これが決定打となった。21日朝の時点の調査では、約100人の議員が大統領の罷免に賛同しているとのことで、与党としても22日の罷免投票で大統領の罷免は明らかとの判断があったもようで、アラオス首相も大統領辞任の道を選ぶことに賛同した。23日に国会で正式にクチンスキー大統領の辞任が承認され、憲法に基づき、ビスカラ第1副大統領が大統領に就任する予定だ。

22日に予定されていた大統領の罷免を問う投票は実施されず

2017年末に続いて2度目となるクチンスキー大統領に対する罷免を問う決議案は、3月8日に複数野党の有志議員30人の署名を伴ない国会に提出された。2017年12月15日に国会に提出された前回の決議案は27人の署名によるものだったが、このうちケンジ議員の実姉ケイコ・フジモリ元大統領候補が党首を務めるフエルサ・ポプラル党の署名が14人と大多数を占めていたのに対し、今回の決議案では同党の署名は5人にとどまっており、フレンテ・アンプリオ党とヌエボ・ペルー党が10人ずつといずれも左派政党によるイニシアチブが大きいことが前回と異なる点だ。

23ページからなる同決議案では、クチンスキー大統領による決定的な汚職や違法行為は指摘されておらず、検察による捜査と国会に発足するラバ・ジャト調査委員会などによる調査で不適切な関係の詳細が明らかになるにつれ、これらへの説明責任を問うかたちで罷免の動きが国会で再燃した。

3月15日には、国会において同決議案の審議を経て可否を決める投票が行われ、同決議案の成立に必要な全議席の4割相当(52票)を大きく上回る賛成87票で可決されていた。賛成票は、フエルサ・ポプラル党の52票、ヌエボ・ペルー党の10票、フレンテ・アンプリオ党の9票となり、反対票はペルアノ・ポル・エル・カンビオ(PPK)党の全議員による15票のみで、棄権15、欠席13だった。この結果を受けて3月22日に再度、クチンスキー大統領が国会において釈明の演説を行い、同日に罷免の賛否を問う投票が行われる予定だったが、同大統領の辞任表明により同投票は行われないこととなった。

新党結成を準備中のケンジ議員は疑惑を否定

ケンジ議員は、2017年12月の罷免投票の際にも当時フエルサ・ポプラル党だったケンジ議員を支持する11人の議員と共に反対票を投じ、クチンスキー大統領継続に支持を示すなど、ケイコ党首に反旗を翻していた。また、3月1日にはフエルサ・ポプラル党を脱退しており、その際、ケンジ派の11人の議員もこれに追随し、新党「カンビオ(変革)21」の立ち上げ準備を進めていた。離党の理由として、ブラジルの大手ゼネコンであるオデブレヒト・ペルー支社のバラタ前社長が、ペルー検察による捜査に対し、2011年の大統領選挙の選挙対策費としてフエルサ・ポプラル党に約100万ドルの選挙資金を支払ったことを自供したことを受け、党の運営方針に同意しかねるとしていた。

ケンジ議員は、会議の隠し撮りと票の買収疑惑を自分にかけることは断じて許せないとしつつ、中央政府の省庁が実施する公共投資の全国における実施の円滑化は国会議員の責務で、票の買収を行った事実はない、との声明を出している。しかし、2017年末の罷免投票時にもクチンスキー大統領の罷免に反対したことから、父の元フジモリ大統領の恩赦を実現させる水面下の交渉があったとの疑惑も出ており、ケンジ議員の信頼失墜は避けられない。

(藤本雅之)

(ペルー)

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