英国とEU、規制の相互認証がカギ－貿易政策の専門家に聞く（1）－

規制面での相互認証の確立が重要

（問）（英国民が）国民投票でEU離脱を選択した要因についてどのように考えているか。

（答）私は貿易交渉に関ってきたが、国際的な潮流が、競争的とは思えない方向に向かっていると感じていた。

私はその反競争的な潮流にあらがえる限りは、英国はEU内にとどまるべきだと考えていた。EUが反競争的な規制制度に向かうのを英国が止められていたかといえば、しばしば止められず、一線を越えてしまっていたように思う。恐らく、特定多数決で物事を決めるようになってから、EUが反競争的な方向へ向かうのを止めることが難しくなってしまった。

国民投票の結果には私も驚いたが、誰もがしたように、私も状況を冷静に見て、英国民はその必要があって離脱に投票したと理解した。結果、どのようにEUを離脱するのか、どのように世界のほかの国々と付き合っていくのか、という大きな問題が生じることとなった。それはある意味良いことで、われわれは英国と世界経済にとってどのような恩恵があるのかに重点を置いて、考えているところだ。

（問）英国とEUの将来の関係はどのような関係が望ましいか。

（答）将来的に成功するためには、英国とEUの関係において、良い部分をできるだけ残し、空白期間を最小化しなければならない。混乱を回避することだけに集中するのではなく、良い部分を残すこととの両方のバランスが重要だ。

英国とEUの貿易協定については、規制面での相互認証制度を持つことで、英国とEUの関係が、現在より良いものになると考えている。いい例がEU単一パスポート制度に関する議論だ。今は周りを全て規制の壁で囲まれた箱の中にいるようなもので、金融サービス業にとって良い状況とは言えない。より良い方法は、要求したい具体的な権利、そしてEUへの市場アクセス要求をはっきりと主張することだ。英国はEU市場アクセスを要求し、英国内ではEUのような硬直した障壁を排除したい。他方、EU市場では、EUの規制当局は好きなように規制をつくればよい。このようにした方が、実際はより良い交渉結果が得られると思う。

では、EUと英国の間の最終的な合意はどのようなものになるのか。政府の政策はとても明確で、EU単一市場からもEU関税同盟からも脱退し、FTAを締結するとことになるだろう。重要なことは、英国とEUが既存のWTOの枠組みに基づく、最大限の規制の相互認証を含んだ、深く包括的なFTAを結ぶことだ。

規制制定には手段ではなく目的を重視すべき

（問）EU離脱後は相互に規制が変わっていくと思うが、どのように相互認証を保つのか。

（答）日本企業から、英国とEUが同じ規制を持つことが望ましいと聞いたことがあるが、本当に英国がEUと同じ規制を持つことを望んでいるのか。例えば、日本の化学メーカーが英国とEUと両方に化学品を売る場合に、EUにはREACH規則（注）があるが、英国が独自の化学品規制を持つとしても、その間に相互認証があれば問題ない。日本企業はより柔軟な規制を持つ英国で、より多くの化学品を売ることができるようになる。英国とEUが全て同じ規制の枠組みを持つべきというのはとても近視眼的で、もしそうなら、市場全体が縮小してしまうだろう。私は法律事務所で、ドイツに生産拠点を持つ大手化学メーカーの仕事をしていたが、REACH規則は評判が悪く、結局、彼らはグローバルでの生産拠点の最適化の観点から全ての化学品の生産をEU域外に移した。これは（EU域内のしかもEUの中心国である）ドイツでの話だ。

では、どのように相互認証を目指していくのか。既存のWTOの貿易の技術的障壁に関する協定（TBT協定）は、例えば人体の健康を守るなどの規制の目指す目的・ゴールが同じである限り、技術面での違いは相互認証に影響すべきでないとしている。英国はEUに対して、人体の健康を守るという点で同じ目的がある限り、自国のやり方で実施し、相互に認証すべきだという提案をしている。私が思うに、このような相互認証は全体的に可能で、法的にも、ビジネス的にも問題はない。問題は、政治的にEUがこれを受け入れるかどうかだ。

（注）「化学物質の登録、評価、認可および制限（REACH）に関する規則」（欧州議会・理事会規則1907／2006）。ジェトロのウェブサイトなどを参照のこと。

（佐藤丈治）