急速に発展するICT市場-イラン産業ガイドブック(1)-

(イラン)

テヘラン発

2018年03月30日

2016年の経済制裁解除以降、主に石油・ガス部門に牽引され、イラン経済は大きく成長した。しかしイランは自動車産業などの製造業の基盤も有し、また人口約8,000万人を抱え消費市場としても大きく、石油・ガス部門以外の成長余力はまだまだ大きい。2018年以降も経済成長率は4%前後を維持すると予想されており、今後、イランの各産業の大きな市場拡大が見込まれる中、ジェトロでは「イラン産業ガイドブック」を作成した。同ガイドブックではイランの有望産業29分野を選定し、それぞれの市場概要を纏めているが、うちICT産業、医療機器産業、および再生可能エネルギー産業について、全二回で紹介する。今回は、ICT市場について解説する。

人口約8,000万人を抱える市場

イランは、石油埋蔵量世界第4位、天然ガス埋蔵量世界第1位の天然資源を有しながらも、長い経済制裁の影響で天然資源開発は停滞し、経済もマイナス成長を続けてきた。しかし2016年1月の核開発に対する経済制裁解除以降、主に石油部門に牽引されてイラン経済は回復しつつある。IMFによれば、2016年のGDP成長率は12.5%、2017年は3.5%としている。イランのGDPに占める石油部門の割合は約23%と比較的低く、天然資源だけでなく多様な産業基盤を有している。例えば、イランは自国内で自動車を生産しており2017年の生産台数は150万台に達するなど、製造業の基盤を有している。また、国内には人口約8,000万人を抱え、さらに平均年齢が約31歳と若年層の割合が高いことから、消費市場としての潜在性も高い。2018年以降も、イランの経済成長率は4%前後を保つと予想されており、今後は石油部門以外の成長が期待されている。

急速に発展するICT市場

ICT分野はイランにおいても急速に成長している分野の一つで、イラン政府が掲げる第6次五ヵ年計画(2017年~2021年)で最も注力する分野の一つとして掲げられている。2016年度のICT分野の市場規模は約108億ドルで、そのうち通信インフラを主とする電気通信部門が約80億ドルと大部分を占める。イランの通信事情の悪さは、最近改善の兆しが見えるものの、現地駐在員にとっても長年の悩みの一つとなっており、通信インフラの増強・開発は急がれることが期待される。

通信インフラだけでなく、eコマースなどのインターネット関連のビジネスの拡大も見込まれる。近年イランでは、インターネット普及率が急速に増加しており、それに伴ってインターネット関連のビジネスが急速に増えている。国際電気通信連合によれば、2010年に15.9%だったイランのインターネット人口普及率は、2016年には53.2%に達している。固定ブロードバンド接続の普及率は11.6%で、ほとんどが携帯端末からのインターネット接続となっており、携帯電話の普及率は100.3%に達する。テヘランの街中では、日本と変わらず、スマートフォンを片手に歩く若者の姿は一般的だ。スマートフォンの普及によって、ここ数年で数多くのウェブサービスが登場しており、日に日に存在感が大きくなっている。例えば、タクシー配車アプリの「Snapp」は2014年に登場以来、急速に拡大をしており、現在は国内18都市でサービスを提供し、約1,000万人のユーザー数を抱えているとされる。その他、デリバリーサービスやネットショッピング等も拡がりを見せている。

未登録の携帯電話は利用不可へ

イランのスマートフォンは全て輸入品であるが、密輸品も多く出回っていた。その密輸対策として、イラン通信省および傘下の通信規制局(Communication Regulatory Authoriry)は、2017年11月1日から、携帯電話の登録制度を導入した。この登録制度では、各端末に付与されている固有の端末識別番号(International Mobile Equipment Identifier:IMEIコード)をオンラインデータベースで管理し、登録されていない端末はイラン国内でモバイルネットワークへ接続することは出来ない。利用者は購入時に、端末がデータベース上に登録されているかを、指定の電話番号(7777)へSMSを送信することで確認できる。なお、登録制度導入前からイラン国内で利用されていた端末については、引き続きネットワークへの接続は可能である。

この制度は段階的に導入されており、2017年11月1日からはアップル、12月5日からはグーグル、ブラックベリー、モトローラ、2月19日からはLGのブランドの携帯電話が登録制度の対象となっている。2018年3月末までに順次、サムスンやファーウェイといったその他のブランドについても登録制度の対象となる予定だ。なお、携帯電話の関税率は18%であり、登録制度が開始されて以降、現地報道によれば携帯電話の価格が20~35%上昇している。

旅行者や一時滞在者等が、イラン国外で購入した携帯電話を利用できるよう、データベースに登録されていない携帯電話でも1か月間は利用可能だ。31日間を超えて利用する場合には、データベースへの登録外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが必要となり、登録後に所定の金額を払い込んだのち、使用可能となる。

(藤塚理)

(イラン)

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