南部経済は観光とゴム産業の両立が重要-タイの地方経済(4)-

(タイ)

バンコク発

2018年03月30日

タイ南部の主要産業は、タイ湾側の天然ゴム産業、アンダマン海側の観光業、そして製造業だ。観光業が好調である一方、昨年来のゴム価格の低迷により、経済の先行きに不透明感が漂う。シリーズの最終回として、南部経済の現状について紹介する。

南部経済の現状と見通し

南部は東北部や北部と同様、第1次産業の比重が高い経済構造であるが、名目GRPのシェアを見ると、第1次産業のシェアは24%、第2次産業は21%、第3次産業は55%と、その他の地域に比べ、第3次産業の割合が高い。

また、産業別就業人口構成比でみても、第1次産業従事者は42%、第2次産業は14%、第3次産業従事者は44%と、第3次産業に従事している人口の割合が高い。

こうした結果を踏まえ、バンコク事務所では、南部最大の都市ハジャイにて、現地の政府機関や日系企業にヒアリング調査を実施した。その結果、南部経済は、タイ湾側の天然ゴムを中心とした農水産業、アンダマン海側の観光業、ハジャイ周辺の製造業と、地域ごとに特徴があることが判明した。

特に、天然ゴムは南部の名目GRPの約16%を占めており、地元経済への影響は大きい。こうしたなか、昨年後半から続く天然ゴム価格の低迷が、地元農家の所得を減少させており、地域の個人消費も低下しているという。

今後の経済については、引き続き好調な観光が経済を牽引する一方、天然ゴム産業が低迷する状況は継続するため、2018年の経済成長も、前年と同程度となる見込みだ。

ゴム産業の一大拠点に

今回のヒアリング調査から、南部で注目されるインフラプロジェクトは、タイ工業団地公社(IEAT)が開発する、ゴム専用の工業団地「Rubber City」、および同じくIEATが整備する国境特別経済開発区(以下、国境SEZ)であることが判明した。

まず、「Rubber City」は、当地にゴム関連の産業を集積させ、地域全体の産業を高度化することを目的としている。「Rubber City」には、ゴム関連企業であれば規模を問わず進出可能だ。

「Rubber City」への投資メリットは、通常のタイ政府による投資恩典の他に、他地域と比べて安価な電気代(10%程度安価)や、外国人でも土地の購入が可能なことだ。

プラユット首相が昨年11月に南部を視察した際、南部経済におけるゴム産業の重要性を認識し、それがこのようなゴム専用工業団地の開発にも繋がったと言われている。

他方、国境SEZは、ハジャイ市内から車で40分程度移動した、マレーシアとの国境付近にある。現在、ハジャイから同SEZへの高速道路も建設中である。

また、マレーシア国境との近接性から、同地域では観光産業(ホテル、レストラン)や物流産業にも可能性があると言われている。

現地政府は将来的に、国境SEZで加工した天然ゴムを、先述の「Rubber City」で更に高付加価値させ、ハジャイ近郊をゴム関連産業の一大拠点にする戦略を掲げている。

首都圏との距離に課題

南部における、外国企業の直接投資額(申請ベース)を国別でみると、マレーシアからの投資が一番多い。ただし、食品やゴム関連分野では、日系企業8社も進出している。

現地日系企業によれば、南部進出のメリットは次のとおりである。まず、ハジャイ近郊のソンクラー港からは、シンガポールとの定期船が運行している。そのため、(シンガポール経由にはなるが)輸出拠点としての立地は比較的良いと言える。

もうひとつのメリットは、数の面でワーカーの確保が容易なことである。近年、現地労働者の最低賃金が上昇し、現状バンコク近郊と大差がない。そのため、以前バンコクで働いていた労働者が故郷のハジャイに戻り、今はハジャイで就職する傾向があるという。そのため、現地の労働人口は豊富だ。

他方、投資のデメリットとしては、消費地であるバンコクから遠いため、輸送コストが高いことだ。また、他地域と比べ、南部ハジャイ在住の日本人は少ないため、日系企業同士の情報交換の場は限られる。その他治安に関して、以前南部では、一部のイスラム教徒による爆弾テロ等が発生していたが、近年ハジャイでの大規模なテロはなく、生活面で危険を感じることはほとんどないという。現地のタイ政府関係者も「10年前と比べ治安は格段に改善しており、主要な場所には防犯カメラが設置され、地域のコミュニティでも治安維持に力を入れている」と自信を見せる。

ゴム産業の高付加価値化を

南部は、近年は外国人観光客数も堅調に増加しており、観光業も経済の牽引役を担うと思われる。

その一方で、ゴム産業は依然として最重要産業である。一次産品である故、世界市場が天然ゴムの価格に与える影響も大きい。こうした影響を過度に受けないようにするためには、国内のゴム需要の喚起や、ゴム産業の高付加価値化が、今後の課題となるであろう。

(阿部桂三)

(タイ)

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