プーチン大統領、女性起業家らとの会合に参加-スタートアップへの支援検討を約束-

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2018年03月29日

プーチン大統領は3月7日、沿ボルガ連邦管区のサマラ市で女性起業家らの会合に参加した。出席者からは企業経営上の問題や女性の観点からの要望が出され、女性経営者の歯に衣(きぬ)着せぬ発言で、日頃、ビジネス環境改善を訴えるプーチン大統領が企業経営の現場の実態を直接知る機会となった。

ロシアの女性の33%が起業を志向

同会合は3月8日の国際婦人デーを前に開催され、30人近い女性経営者・起業家が参加した。女性の観点から、起業・社会進出や企業経営に関する問題点などが挙げられた。企業経営に関する問題点については、女性経営者のみならず、ロシアの一般的な中小企業やロシアに進出した日系企業なども直面する課題も含まれている。

女性の起業・社会進出に関する問題点について、ある起業家からは不定期の度重なる税務調査について苦言が呈された。仮に税務調査で経済犯と認定された場合、妊娠中の女性や小さな子供を抱えた女性でも収監される可能性があり、「そのような場合に(子供を含め)身柄の安全が確保されないことが女性の起業や企業内での活躍を妨げている」と指摘した。

また、別の起業家は、女性の社会復帰を妨げる原因として、a.仕事と家庭の両立の難しさ、b.最新技術との隔絶、c.雇用者側が母親の雇用に消極的、の3点を挙げた。また、中小企業団体「オポラ・ロシア」の調査から、ロシアの女性のうち33%が起業を志向しているとのデータを示してプーチン大統領を驚かせたほか、「女性の起業を思いとどまらせているのは、1番目は身の安全だが、2番目は開業資金が調達できないこと」と話した。女性は出産に際し金銭の支出が多くなるため、余計に(その後の)起業に向けた資金を蓄えることができない、と説明。また、銀行からの融資は(現在はロシアの低いインフレ率と中央銀行の金融政策の影響もあり)利率が低下しているといわれるが、実際の窓口ではいまだ年15~17%程度でないと長期の融資は受けられない、と述べ、銀行融資が利用困難な状況を踏まえ、「中小企業支援の枠組みの中に、子供を持つ女性がゼロからビジネスを立ち上げるためのスタートアップ(創業支援)基金を設け、低利の融資を行ってはどうか」と提案した。プーチン大統領は「大変、正しい方法」と応じ、前向きな検討を約束した。

ある女性参加者はベビーシッター(注1)について、現在は個人間の現金のやり取りが主流だが、ベビーシッターの個人事業者登録を支援し、国家登録制度を導入することで同サービスに一定の品質管理を実現させるべき、と提案した。

行政当局の対応や銀行との関係、輸入代替でも議論

一般の企業経営に関する問題提起について、幼児向け食品製造の女性経営者は、通常の食品に関しては産業商務省が管轄だが、幼児向け食品の管轄は農業省となっており、原料生産者の保護には動くが、加工業者の声には耳は貸さないと指摘した。建設業を営む女性経営者は、銀行による突然の口座凍結と凍結理由の不開示で深刻な問題が起きていると発言した。プーチン大統領は、前者に対し「想定外の内容」として対応を約束。後者に対しては会合に同席したアンドレイ・ベラウソフ大統領補佐官に対しては問題解決のため大統領令を準備するよう指示した。また、政府が進める輸入代替政策の継続を求める意見に対し、プーチン大統領は「政策の狙いは国家の安全保障で、現在の情勢を反映した時限的な政策」と応じた(注2)。

会合の最後にプーチン大統領は、ロシアを含めた現在の世界が男性中心の社会であることを認めた上で、「全ての面で男女の権利が平等となることが重要で、それに向けて行わなければならないことは多い」とし、女性の権利向上に政府として取り組む姿勢をあらためて強調した。

(注1)ロシアでは、ベビーシッターの利用が日本よりも一般的。通常、年配のロシア人女性や中央アジアなどから出稼ぎでロシアに来ている女性が行うことが多い。

(注2)このほか、公立の保育園や学校給食などの入札が価格のみで決まり、価格競争力の点で地元企業の参入が限定されているため子供の食事内容を不安視する意見や、ロシアで一般的な子供のサマーキャンプに関し一定の基準を法令で規定するよう求める意見、薬局の雇用維持の観点から一般医薬品の通常の小売店舗での販売を認めないよう求める意見、連邦動植物検疫監督局が開発した食品衛生管理システム「マーキュリー」が実際の企業での使用に耐えないといった苦情が出た。日本進出を予定するパワードスーツ(パワーアシストスーツ)開発企業の女性経営者は、政府による継続した技術開発支援を要望した。

(高橋淳)

(ロシア)

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