製造業振興も貿易赤字脱却には時間-インドの投資環境の現状と課題(1)-

(インド)

アジア大洋州課

2018年03月30日

インドは近年7%程度の経済成長を維持し、13億人という人口を背景に自動車や携帯電話は世界有数の巨大市場に成長した。5年目を迎えるモディ政権は高額紙幣の無効化や、物品・サービス税(GST)の導入など痛みを伴う経済改革を断行。インフラ整備にも手厚い予算を投じ、道路整備や貨物専用鉄道などの整備も急ピッチで進める。インドの投資環境の現状と課題について、4回シリーズで報告する。1回目は、インドの貿易動向について。

貿易赤字は縮小も、製造業振興に注力

インドは、伝統的に貴石類を輸入して加工して再輸出するビジネス、さらに近年では原油を輸入し精製して再輸出するビジネスも本格化しており、同2品目だけで貿易総額の30~40%近いシェアを有する。他方、政府は製造業振興に躍起になっているが、13億の人口を背景に国内で高まる需要を輸入で賄わざるを得ない状況が続いている。結果としてインドは長年にわたり貿易赤字に悩まされており、2012年は2,000億ドルに迫る貿易赤字を計上した。ここ数年は石油価格の下落もあり2016年は1,000億ドルまで赤字幅は縮小したが、高まる携帯電話などの電子機器へのニーズを背景に中国からの輸入は年々拡大の一途を辿っている。他方、輸出品目を見ると、自動車やその部品、ポンプや発電機などの一般機械が輸出品目として各々5%程度のシェアながら徐々にその存在感を高めている。

自動車、一般機械や医薬品は輸出拡大

2016年の輸入を品目別(HS2桁ベース)でみると、原油を含む鉱物性燃料のシェアが25.0%で最大となった。2014年以降、石油価格の下落に伴いシェアも下がっているが、引き続き貿易総額の4分の1を占める主要輸入品目だ。これに、インドが伝統的に強みを持つ宝石の研磨加工技術を生かした貴石類の輸入(13.3%)が続く。第3位が携帯電話などを主とする電気機器で、中国からの輸入を中心にシェアは拡大の一途を辿っている。

他方、2016年の輸出を見ると、シェア上位2品目は貴石類と鉱物性燃料でシェアは30%近い。これに輸送機器がシェア5.6%で続いた。輸送機器業界はマルチ・スズキの30余年前のインド進出以来、日系企業が業界をリードしており、既に完成車を近隣諸国や欧州、アフリカ、中南米向け、さらには自動車部品を日本やASEANをはじめとした世界各地の市場に供給する拠点となった。次いで、一般機械がシェア5.1%となった。インドは鉄鉱石を有し製鉄も盛んであり、ポンプ類や発電機などの鉄鋼部材を多く用いた製品に競争力がある。これに医薬品がシェア4.9%で続く。2000年比で約2.5倍となった。インドはアメリカ向けを中心にジェネリック医薬品の製造ハブとして機能する。また、綿花の一大生産国として衣類関連品目(ニット類、織物類)のシェアも6%を超えており、輸出品目としての存在感も高い。

年々強まる中国依存

国別の輸入では、2010年以降、中国のシェアが唯一10%を超え他国の追随を許さない。中国からは主に、携帯電話、半導体、パソコンなどの電子機器を輸入する。次いで米国は航空機や一般機械類の輸入がメインだ。その他の主要輸入相手国からは、原油や宝飾品、自動車部品などを輸入する。

他方、輸出は、仕向け地別のシェアで米国が15.7%と最大だ。品目ではダイヤモンド加工品など貴石類、さらに医薬品(主にジェネリック医薬品)の輸出が上位に入った。次いでアラブ首長国連邦向けが11.7%となった。品目では貴石類が主で、これに石油精製品が続いた。他方、中国向けの輸出は伸び悩んでおり、シェアは僅か3.4%。2016年の対中国の貿易赤字額は520億ドルに達する勢いだ。中国向けの輸出品目としては、綿糸や鉄鉱石などの鉱物など一次産品が多く、工業製品などのシェアを伸ばしているもののその存在感はまだ薄い。

投資環境整備が奏功し、世銀の評価は30位アップ

こうしたなか、インド政府は、2014年9月に国内の製造業振興を図るべく「メイク・イン・インディア」スローガンを発表。GDPに占める製造業の割合を15%から25%に引き上げる目標を掲げ、製造業振興に対する姿勢を内外に鮮明に打ち出している。同スローガンの下、政府は物品・サービス税(GST)の導入やインフラ整備の加速など投資環境の改善に熱心に取り組んでおり、インド向けの対内直接投資金額は、2015年以降2ケタペースで伸び続けている。世界銀行の「ビジネスのしやすさランキング(Doing Business) 2018」でも前年から順位を30位上げ、100位に漕ぎつけており、外国企業の投資にも一層の弾みがつくことが期待される。

(西澤知史)

(インド)

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