AIやスキャン技術で顧客体験を向上-ニューヨークで米国最大規模の小売関連展示会が開催-

(米国)

ニューヨーク発

2018年03月30日

全米小売業協会(NRF)が主催する米国最大規模の国際小売展示会「リテールズ・ビッグ・ショー2018」が、ニューヨーク市内で開催された。最先端の技術を活用した小売業者向けの商品やサービスなどが紹介されたほか、同時に開催されたシンポジウムでは、業界の現状や今後の課題、特に店舗での集客を増やすための方途などが議論された。

AIを活用したカスタマイズサービスなどを紹介

米国小売業界最大規模の国際展示会「リテールズ・ビッグ・ショー」が1月14~16日にニューヨーク市内のジェイコブ・ジャビッツ・コンベンションセンターで開催された。1911年から毎年開催されるなど、同展示会の歴史は長く、今回で第107回目を迎えた。主催者によると、今回の参加者は約3万5,000人、出展企業数は600社以上に上るとされる。会場では、インターネットやモバイル機器を活用した小売業者の出展や消費者向けの最先端のテクノロジーが披露されたほか、小売業界の専門家が業界の現状や今後の課題について議論するシンポジウムも開催された。

写真 会場内に設置されている出展スペースの様子(NRF提供)

展示会では「イノベーション・ラボ」と呼ばれる体験型展示スペースが設けられ、AIなどの最先端技術やテクノロジーを活用した注目のスタートアップ企業26社が集まった。

例えば、ファインドマイン(本社:ニューヨーク市)は、消費者がシャツを購入する際、AIが搭載された同社のオンラインプラットフォームを利用すると、シャツに合ったアイテムやアクセサリーを同時に提示し、全身コーディネートをスタイリストのように自動提案するといったサービスを提供している。シャツを購入した利用者は、パーソナルスタイリストのようなサービスを同時に受けることができるとともに、プラットフォームを利用するブランド側は、消費者の好みや購買行動に関する情報を得ることができる。既に同社は、カジュアル系ファッションブランドのアメリカン・イーグル・アウトフィッターズやスポーツ用品メーカーのアディダスにも、プラットフォームを提供している。

また、スライス(本社:ペンシルベニア)は、スマートフォンで撮影した画像に掲載されている商品(家具、衣類、食品など)を、AIを用いた画像検索・機械学習技術によって分析し、関連商品を同時に表示するサービスを提供している。既に百貨店チェーンのメイシーズやホームセンター大手のホームデポでは同社の技術を活用したモバイルアプリを開発し、サービスを提供している。同アプリ内では、利用者が画像を投稿すると類似の商品が表示され、同時に購入も行うことができるようになっている。

写真 ファインドマインの出展ブース(左)とスライスの出展ブース(右)(2点ともジェトロ撮影)

顧客体験に取り組む重要性が増す

また、同時に開催されたシンポジウムでは、昨年に続き(2017年3月23日記事参照)、オンライン販売が拡大する中で来客者数減少が加速する実店舗において、テクノロジーを使った「顧客体験」の向上に取り組む必要性が指摘された。展示会を主催したNRFの会長であるマシュー・シェイ氏は、「2017年は、大手小売業を含めて約7,000の店舗閉鎖が記録されたことなどから、小売業が衰退しているとの報道もみられたが、個人消費のオンライン化が進んでいることを示しているに過ぎず、現状を正しく表していない。年末商戦も好調であり、個人消費は堅調である。しかし、ネット販売の利用加速は今後も続くことが予想され、実店舗ではよりユニークな消費体験を提供することが求められる」と指摘した。

例えば、アイラ・テクノロジーズ(本社:マサチューセッツ)は、実店舗での事業効率化に向け、最新のスキャン技術を用いたキオスク端末を開発・販売している。この端末を使って商品のバーコードやQRコードをスキャンすることで、個別商品の在庫状況や位置情報といった詳細情報を、小売業者はリアルタイムに収集することができる。また、消費者は、セルフサービスで会計を行い、速やかに買い物を終えることができる。

このキオスク端末の導入を通じて顧客サービスの向上を図る企業の1つとして、ファッションレンタルサービスのレント・ザ・ランウェイ(創業:2009年、本社:ニューヨーク市)が挙げられる。同社は、当初オンラインのみで事業を展開していたが、2014年から試着ショールームの機能を持つ実店舗を展開し、プロのスタイリストからアドバイスを受けられるサービスを提供している。これにより、オンライン事業だけでは提供できない顧客体験の提供を進めているが、同社の店舗では、前述のキオスク端末が使用されている。キオスク端末を利用すると、消費者はオンラインで購入し、サイズが合わなかった商品の返品・交換を、実店舗にあるキオスク端末によって簡単に行うことができるとともに、スタイリストや店員は店舗に来客する顧客対応に集中することができる。

このように最近では、実店舗の機能や役割を見直し、サービス向上につなげる取組の重要性が増している。レント・ザ・ランウェイのように、オンライン販売で既に成功している企業であっても、ブランドイメージの強化、競合他社との差別化、新規顧客の開拓、売上高への向上など、さらなる成長のために実店舗の存在意義を見直し、消費者の体験価値を重視する動きがみられている。

(樫葉さくら)

(米国)

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