地域格差が拡大するタイ経済-タイの地方経済(1)-

(タイ)

バンコク発

2018年03月30日

タイ経済の特徴は、第一次産業への依存度が高いことと、バンコク周辺と地方の経済格差が大きいことである。経済格差は、市民による大規模なデモなど、近年の政治的混乱の原因にもなっている。こうしたなか今年は、2014年の軍事クーデター以来初となる総選挙の実施が予定されており、地方経済対策が改めて注目されている。そのため本稿では、総論、東北部、北部、および南部と4回に分けてタイの地方経済を分析する。第1回は、総論としてタイ経済の現状を概観する。

全国的には経済回復のきざし

タイ経済は2014年5月に発生した軍事クーデターや、その後の世界経済の減速の影響を受け、2014年以降成長が鈍化していた。しかし2017年になると、GDP成長率は3.9%増と急速に回復した。項目別にみると、特に「物品輸出」が大きく成長し(前年比9.9%増)、同年の政府目標(前年比8%増)を上回り、タイ経済を大きく牽引した。

また「消費」も、2017年の国内の自動車販売台数は前年比87.2万台(前年比13.4%増)に達し、5年ぶりに増加した。個人消費に改善傾向にあると言えよう。

他方、現地日系企業からは、「地方経済、特に農村部の景気には改善が見られない」という声が聞かれる。2017年前半は、農産物の生産高や価格がプラスに転じたことで、農家所得も増加し、同年のタイの個人消費を下支えしたと言われている。しかし、直近の農産物価格や生産高は低下しており、地方経済が実際に改善しているか否かは不透明である。

地域格差、最大6倍の差

タイ経済の構造について、国家経済社会開発庁(NESDB)が公表しているGRP(Gross Regional Product)と、国家統計局が公表している人口構成比を分析してみると、名目GRPの地域別シェア(2015年)は、バンコク周辺部が47%と最も高く、次いで日系企業が集積する東部(17%)が2位に位置する(注)。そして、東北部(10%)、南部(9%)、北部(8%)、中央部(6%)、西部(3%)が続く。

他方、タイの地域別人口構成比を見ると、最も人口が多いのは東北部(28%)であり、次いでバンコク及び周辺部(23%)、そして北部(17%)、南部(14%)、東部(8%)、中央部(5%)、西部(5%)が続く。

この結果を踏まえ、2015年の1人当たりGRPを比較すると、最も多いのが東部(43万2,712バーツ)、次いでバンコク周辺部(41万617バーツ)である。他方、東北部(7万906バーツ)は最下位に位置し、東部と東北部とでは1人当たりGRPに、約6倍の差がみられる。理由は、東部は、自動車産業や電気・家電、一般機械など、高付加価値な工業製品の製造拠点であるが、東北部の主要産業は農業であることだ。

このように、バンコク周辺部や製造業が集積する東部と、その他の地方の経済格差は大きい。これが、都市部と地方の対立を背景とする、タイで近年続いた政治的混乱の要因でもある。

更に拡大する地域格差

バンコク周辺部と地方との経済格差は、さらに拡大傾向にある。名目GRPの地域別シェアを時系列でみてみる。バンコク周辺部のGRPシェアは、2012年以降上昇していることがわかる。他方、それ以外の地域のGRPは、2010年以降は横ばい、または低下している。つまり、地方経済の規模が拡大していないことを示している。むしろ、地方との経済格差が再び拡大している可能性がある。

(注)GRPは、GDP(Gross Domestic Products)を地域別にブレイクダウンした指標である。

(阿部桂三)

(タイ)

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