EUとのFTAの現代化交渉が進む-中南米主要国の通商政策と地域統合をめぐる動き-
(メキシコ)
メキシコ発
2018年02月01日
メキシコの北米自由貿易協定(NAFTA)依存からの脱却にとって重要な通商協定の1つに、2000年に発効したEUとのFTAがある。EUとの間のFTAはNAFTAと同様に現代化のための交渉が現在行われており、2018年第1四半期中のできるだけ早い交渉終了を目指している。メキシコの通商政策と地域統合をめぐる動きについての連載の後編。
多角化でNAFTA依存からの脱却を目指す
2017年上半期のメキシコからの完成車輸出(大型バス・トラックを除く)台数は、NAFTA向けが83.9%と前年(86.0%)よりわずかに減少してはいるものの、依然としてNAFTAに大きく依存していることは確かだ(表参照)。ただし、いわゆる米ビッグスリー〔ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)〕の方がNAFTA依存度はさらに高い。他方、マツダのように欧州向けの割合が他社に比べて多いところや、日産のように南米向けが多いところもある。NAFTAの再交渉が始まったことにより、輸出先の多角化があらためて意識され、在メキシコの完成車メーカーにとって多角化が重要性を増すことが想定される。
企業名 | 年 | 仕向け地 | 輸出合計 | |||||
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北米 | 中米・カリブ | 南米 | 欧州 | アジア | その他 | |||
GM | 2016年 | 505,543 | 2,663 | 28,382 | 0 | 2,264 | 660 | 539,512 |
2017年 | 633,947 | 2,404 | 48,231 | 0 | 3,667 | 5,533 | 693,782 | |
前年比 | 25.4 | △ 9.7 | 69.9 | ― | 62.0 | 738.3 | 28.6 | |
日産 | 2016年 | 398,456 | 22,252 | 72,796 | 11 | 6,489 | 384 | 500,388 |
2017年 | 375,631 | 22,751 | 60,694 | 245 | 8,767 | 775 | 468,863 | |
前年比 | △ 5.7 | 2.2 | △ 16.6 | 2,127.3 | 35.1 | 101.8 | △ 6.3 | |
VW | 2016年 | 238,834 | 492 | 23,978 | 59,064 | 11,572 | 0 | 333,940 |
2017年 | 275,460 | 708 | 26,233 | 70,971 | 12,750 | 0 | 386,122 | |
前年比 | 15.3 | 43.9 | 9.4 | 20.2 | 10.2 | ― | 15.6 | |
フォード | 2016年 | 362,508 | 0 | 14,375 | 0 | 0 | 0 | 376,883 |
2017年 | 282,844 | 0 | 18,019 | 0 | 6,515 | 0 | 307,378 | |
前年比 | △ 22.0 | ― | 25.3 | ― | ― | ― | △ 18.4 | |
FCA | 2016年 | 430,127 | 0 | 5,150 | 126 | 7,864 | 18 | 443,285 |
2017年 | 550,757 | 935 | 4,957 | 41,250 | 1,570 | 21 | 599,490 | |
前年比 | 28.0 | ― | △ 3.7 | 32,638.1 | △ 80.0 | 16.7 | 35.2 | |
トヨタ | 2016年 | 129,640 | 5,426 | 0 | 0 | 0 | 0 | 135,066 |
2017年 | 142,981 | 5,149 | 0 | 0 | 0 | 0 | 148,130 | |
前年比 | 10.3 | △ 5.1 | ― | ― | ― | ― | 9.7 | |
ホンダ | 2016年 | 159,060 | 0 | 5,762 | 0 | 0 | 40,806 | 205,628 |
2017年 | 143,344 | 0 | 0 | 0 | 0 | 43,833 | 187,177 | |
前年比 | △ 9.9 | ― | △ 100.0 | ― | ― | 7.4 | △ 9.0 | |
マツダ | 2016年 | 66,467 | 784 | 16,576 | 56,535 | 1 | 93 | 140,456 |
2017年 | 77,168 | 1,335 | 12,740 | 55,592 | 2 | 1,096 | 147,933 | |
前年比 | 16.1 | 70.3 | △ 23.1 | △ 1.7 | 100.0 | 1,078.5 | 5.3 | |
2016年 | 89,413 | 993 | 2,677 | 0 | 24 | 0 | 93,107 | |
起亜 | 2017年 | 120,332 | 9,847 | 26,428 | 0 | 5,698 | 1,424 | 163,729 |
前年比 | 34.6 | 891.6 | 887.2 | ― | 23,641.7 | ― | 75.9 | |
合計 | 2016年 | 2,380,048 | 32,610 | 169,696 | 115,736 | 28,214 | 41,961 | 2,768,265 |
2017年 | 2,602,464 | 43,129 | 197,302 | 168,058 | 38,969 | 52,682 | 3,102,604 | |
前年比 | 9.3 | 32.3 | 16.3 | 45.2 | 38.1 | 25.5 | 12.1 |
(注)仕向け地の「その他」には、「アフリカ」と「仕向け地不明」を含む。
(出所)メキシコ自動車工業会(AMIA)
対EU協定の現代化交渉は2017年内に妥結せず
これら輸出先国は、メキシコとの通商協定が存在するケースがほとんどだ。中でもEUとのFTAは、メキシコの産業競争力の強化や農産物輸出の拡大にとって重要とされており、NAFTAと同様に、包括的な現代化を目指して協議が始まっている。同協定は1997年12月8日に署名され、2000年7月1日に発効した。これまでに両者の間で貿易・投資の拡大をもたらし、多くの雇用を生んできたとしながらも、国際経済の新たな現実に即していくことが必要として、2013年に包括的な現代化を目指すことで合意。その実現に向け、EU・メキシコ共同作業部会を発足させ、2015年6月12日に開かれたEU・メキシコ首脳会議では、同作業部会がまとめた当該協定に関する最終報告書が発表された。
そして、第1回交渉は2016年6月13~14日に行われ、以後2018年1月中旬までに計8回の交渉が行われている。2017年内妥結を目標として12月11~21日に行われた第7回交渉では、投資、知的財産権、市場アクセスなどの分野で大きな進展があったものの、年内の大筋合意には至らなかった。
交渉範囲は、市場アクセス、サービス貿易、投資、政府調達、知的財産、貿易の技術的障害(TBT)、衛生植物検疫措置(SPS)、原産地規則、貿易円滑化、透明性、良き規制慣行、中小企業、エネルギーおよび原料、腐敗防止、競争、国有企業、補助金、貿易と持続可能な開発、貿易救済措置、紛争解決など多岐にわたる。
メキシコ側の関心は農産品輸出と投資誘致
メキシコ貿易投資振興機関プロメヒコ(PROMEXICO)ロンドン事務所のカルロス・サンチェス・パボン氏は「メキシコの主眼としては、農産品の対EU輸出拡大がある。これら産品の多くは17年前の発効時には除外されていたか、関税割当の対象品目になっていたもので、これらを交渉の俎上(そじょう)に載せることだ。また投資分野においても、やはり17年前の発効当時には協定の対象に入っていなかったサービス、通信、エネルギー、電子商取引などの分野を協定の対象とし、EU企業による対メキシコ投資を促進させる」と述べ、プロメヒコとしてもこうした分野を中心に新たな投資誘致プロジェクトを展開する準備を始めているとした(「レフォルマ」紙2017年8月2日)。
また、同氏は「ドイツ系の完成車メーカーはメキシコからドイツに輸出し、ドイツから域内の他EU諸国に輸出する、ないしはメキシコから南米へ輸出するなど、従来のメキシコ国内消費ないしは対米輸出一辺倒の動きから変化がみられており、こうしたゲートウエーの機能を発揮しやすくすることも重要だ」と考えている(同紙)。
メキシコ側は農産品について、砂糖、バナナ、牛肉、オレンジジュース、アスパラガス、蜂蜜などの対欧輸出に関心を持っているもようだ。このうち牛肉について、メキシコ牛肉輸出協会のロヘリオ・ペレス事務局長は「現在、対EU輸出では20%の関税がかかる。EUから提案されている改定案は関税割当となっており、割当内関税が50%削減(実際の関税は10%)、さらに重量当たり関税として1キロ当たり2~3.5ユーロとするものだが、到底受け入れられない。メキシコとしては関税割当なしの自由貿易を主張しているところだ」(「エル・ノルテ」紙2017年10月9日)としている。
自動車の原産地規則提案は非公開
EU側の提案テキストの幾つかはEUのウェブサイトで確認することが可能だが、当地進出日系企業などに関心の高い自動車関連の具体的な品目別原産地規則(PSR)などの提案は公開されていない。対EU協定の原産地規則は古く、メキシコのサプライチェーンの現状を考慮すると達成が困難な品目も多いため、原産地規則の緩和や簡素化を求める声は強い。
自動車分野に関しては、2017年10月公開の提案資料として、「添付(ANNEX):自動車、同設備・部品など」がある。同添付では、非関税障壁の撤廃、国際基準調和、相互認証の促進、安全・環境などを目的として、自動車基準調和世界フォーラム(UN/ECE/WP29)を国際基準として認識し、メキシコに対し、「国連の車両・装置などの型式認定相互承認協定(1958年協定)」への加盟努力を規定している(添付4条2項)。市場アクセスでは、同協定基準またはECの認証が得られているものについてはそれ以上の試験などの順守要求を行わないこととし、完成車の国連基準については、同1958年協定に基づく自動車に係る認証の相互承認を装置単位から、「車両単位」に発展させた制度のうちU-IWVTA(Universal IWVTA)を有効とすると規定している(同5条1項)。
ちなみにメキシコ側は、一部の安全装備に対してメキシコ公式規格(NOM)による安全規格を導入したが、求められる証明としては日本、米国、EU、韓国、ブラジル、国連基準のどの認証取得でもよいという形式になっている。
EU側の資料によると、第5回交渉の際にメキシコ側からは同添付に対するコメントの提出があったとしているが、その内容については触れられていない。また原産地規則については、幾つかの類(HS番号の上2桁)については合意でき、鉄鋼を含む幾つかの類は合意間近としながらも、他品目ではまだ多くの宿題を抱えているとしている。また現在、EU側の専門家が、メキシコ側からの「繊維・繊維製品」関連の原産地規則に関する提案について詳細に議論しているとの記述がみられる。
(中島伸浩)
(メキシコ)
ビジネス短信 bc519854aef6ae69