企業が投資に前向き、拡大するEC市場

(カナダ)

トロント発

2018年02月14日

カナダは従来、米国や英国に比べて電子商取引(EC)が小売り全体に占める割合は高くなかったが、主要企業がEC向けの投資に力を入れ始めており、徐々にその比率は高まってきている。カナダには、ECを通じて成長する企業だけではなく、中小企業がECに参入するための使いやすいプラットフォームを提供することで業容を拡大する企業もある。

米国や英国より低いEC比率

現在のカナダEC市場は、他の先進国に比べて大きくはない。ボストン・コンサルティング・グループによると、カナダの2014年のEC市場規模は200億カナダ・ドル(約1兆7,400億円、Cドル、1Cドル=約87円)超と見積もられており、カナダの小売市場全体の7%を占めているにすぎず、米国や英国におけるECの占める割合(10%、15%)よりも低い。カナダでEC普及が進んでいない理由の1つとして、既存のカナダの小売企業が実店舗の売り上げ減少を懸念し、積極的にECの展開を行ってこなかったことが挙げられている。そのため、為替や関税、輸送などのコストがかかったとしても、カナダより品ぞろえが豊富な米国のECサイトを利用する消費者が一定数カナダに存在する。

一方、ECの主要企業は、カナダのEC市場拡大に向け積極的な投資を開始している。ウォルマート・カナダは、品ぞろえを強化しウェブサイトで数万点の商品を扱うようになった。2015年には配送センターを2カ所に設立し、1億Cドル以上を投資した。また、トロント大都市圏ではオンラインでの一般食料品の配送サービスを開始した。アマゾンカナダは2016年の取扱商品数を2013年に比べて2倍に増やした。カナダの消費者のEC利用状況も、今後のカナダEC市場の拡大の可能性を示唆している。カナダの18~44歳の消費者層は、ECで1カ月に1回以上購入する割合が、55歳以上の消費者層と比較して2~4倍となっている。米国商務省によると、カナダのEC市場は2019年までに小売り全体の10%を占めるようになると予測されている。

中小企業向けにECプラットフォームを提供

カナダの首都オタワを本拠地とするショピファイ(Shopify)は2004年に創業し、2006年に中小企業向けのECサイトを構築するためのプラットフォームの提供を開始した。現在、同社のサービスを利用したECサイトは175カ国、50万超に上り、これらを通じた売り上げは総計で460億Cドルとなっている。同社は、ECサイトの構築や運営に必要なあらゆる機能を低価格で提供している。例えば、同社が提供するサイトのテンプレートを活用すれば、自動的にモバイルやタブレット端末からの商品の閲覧と購入を可能にするサイトをその日のうちに開設できる。また同社は、2016年に人工知能(AI)を活用したチャットボットサービスを提供するキットCRMを買収し、サイト運営者にAIを活用したマーケット分析ツールを提供している。利用者が使いやすいプラットフォームは、EC大手のアマゾンの目にも留まり、2015年には独自のECサイト開設のためのプラットフォームの提供を2016年中に終了することを発表、ショピファイのサービスの利用を推奨するに至った。

男性向けアパレル販売で成長する企業も

バンクーバーに本社を構えるインドチノ(Indochino)は2007年、ECを通じて手頃な価格で男性用オーダーメードスーツを購入できるようにすることを目指して設立された。通常、スーツのオーダーメードは時間を要し、費用も既製服より高額だが、自社のECサイトで顧客が自ら採寸する方法を説明し、発注を可能にすることで、1着の価格を400Cドル程度、3週間という短納期を実現した。同社の主要な顧客層は、仕事や結婚式などの催事でスーツを必要とし、かつ今までオーダーメードを利用した経験がない25~45歳の男性だ。オーダーメードに不慣れな顧客も多いことから、同社は、ECでオーダーメードスーツを販売するだけでなく、北米にショールームを21店舗展開している。同社広報・小売りマーケティングマネジャーのサラ・マイヤー氏は「実店舗の展開は一見、当社の事業戦略と逆行するようだが、結果的には実店舗の存在が初めて当社を利用する顧客に安心感を与え、ECを通じたリピートオーダーにつながっている」と述べている。ECサイトを通じて、北米以外からの発注にも応じており、世界140カ国以上に発送実績がある。マイヤー氏によると、同社の直近の売り上げは2年連続で前年比50%以上の伸びを記録しているという。2月8日には、三井物産の米国子会社Mitsui USAが、インドチノに投資することを発表した。投資の受け入れを通じて北米でのブランド認知度向上と、世界展開およびサプライチェーンへの投資を行うとしている。

フランク・アンド・オーク(Frank & Oak)は2012年、ECで男性向けに優れたデザインや機能を備え、かつ手頃な価格のカジュアル衣料を販売することを目的に、モントリオールで設立された。同社の顧客は、既存のファストファッションでは飽き足らない20~35歳の専門職の層だ。同社のECサイトで、好みのスタイルやサイズを入力すると、顧客の関心に応じてカスタマイズされた新商品のニューズレターが定期的に配信され、顧客の関心と購入意欲を喚起する。現在は女性用衣料や履物にも参入し、事業を拡大させている。同社の顧客は北米のほか40カ国に広がっている。

(伊藤敏一、ジョニー・タン)

(カナダ)

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