ユーザー産業は競争力低下、農業界は対抗措置を懸念-232条調査結果に対する主要業界団体の反応-

(米国)

ニューヨーク発

2018年02月26日

鉄鋼およびアルミニウムの輸入が米国の安全保障を損なう恐れがあるとした、商務省の通商拡大法232条に基づく調査結果について、主要業界団体の反応を紹介する。鉄鋼については、国内メーカーや労働組合が商務省の判断を支持した。アルミニウムについては、カナダとのサプライチェーンの維持を求める声が主要企業から上がっている。また、鉄鋼とアルミニウムのユーザー産業は輸入制限的な措置の導入により競争力が失われると批判している。農業界は、中国などの対抗措置により輸出先の市場が閉ざされることがないよう政権に求めている。

鉄鋼メーカーと労働組合は商務省の判断を支持

業界団体は、商務省が2月16日に公表した判断と大統領への提言内容(2018年2月23日記事参照)に関して意見表明を行い、トランプ大統領の対応を注視している。

全米鉄鋼労働組合(USW、注1)のレオ・W・ジェラルド代表は「安全保障に不可欠な鉄鋼とアルミニウム産業が、(他国の)不公平な輸入により執拗(しつよう)な攻撃や挑戦を受けていることについて、ウィルバー・ロス商務長官が包括的な理解を示した」と商務省の判断をたたえた。特に最低でも53%の高関税を特定国に課す商務省の提言内容(その他の国々には2017年の対米輸出実績を上限とした輸入総量割当を設定)について、これらの国々(ブラジル、中国、コスタリカ、エジプト、インド、マレーシア、韓国、ロシア、南アフリカ共和国、タイ、トルコ、ベトナム)は貿易ルールに常に違反してきたとして、他国の貿易慣行が米国産業衰退の要因との認識を示している。その上でトランプ大統領に「効果的な救済策を迅速に導入すること」を求めた。

電気炉メーカーの業界団体、米国鉄鋼製造業者協会(SMA)も商務省の判断を支持した。SMAは調査結果公表前の2月1日にも、米国鉄鋼協会(AISI)と共同でトランプ大統領宛てに書簡を発出している。書簡では、中国だけでなくブラジル、韓国、ロシア、トルコ、日本からの鉄鋼輸入が多いとして、全ての輸入国と鉄鋼製品を対象にした包括的な輸入救済措置の導入を求めている。書簡には、AKスチール、アルセロール・ミタル、USスチール、ニューコアなどの主な鉄鋼企業が署名している。なお、AISIは調査結果公表後に声明は出していない(2月22日時点)。

一方、鉄鋼の輸出入協会である米国国際鉄鋼協会(AIIS)は2月19日付の声明で、商務省の提言内容は「過剰(excessive)で不必要(unnecessary)」だと批判している。米国の鉄鋼業界は既に国内で最も保護されている産業だとし、国内の製鉄所の閉鎖は輸入品の流入ではなく古く非効率な生産設備に原因があると主張している。

アルミ企業はカナダとのサプライチェーン維持を求める

米国アルミニウム協会(AA)は、中国の過剰生産に対応すべきとする一方、他国との貿易関係が影響を受けることがないよう政権に求めている。特に欧州のほか、サプライチェーンの結び付きが強いカナダとの貿易関係の維持を主張している。

アルミニウム産業の主要メーカーは、中国からの輸入を問題視しつつ、カナダとのサプライチェーンの維持を求めてきた。例えばアルコアは、同社のカナダの精錬所で生産されたアルミニウムが米国の川下産業に輸出され米国人の雇用を支えているとし、北米の一体化したサプライチェーンの維持を求めている。また、米国の旺盛な国内需要を満たす上でカナダからの輸入は必要としている(注2)。現在、米国のアルミニウム輸入の4割以上がカナダからとなっている。

自動車などユーザー産業も輸入制限措置を懸念

鉄鋼とアルミニウムのユーザー産業からは、輸入制限措置の導入による価格上昇とそれに伴うコスト競争力の低下を懸念する声が強い。

米自動車大手3社(ビッグスリー、注3)が組織する自動車政策会議(AAPC)のマット・ブラント会長は2月16日、輸入制限措置の導入による鉄とアルミニウムの価格上昇で米国の自動車産業の競争力を損なわないよう大統領に引き続き求めていくと発言している。米国自動車部品工業会(MEMA)も、商務省が提案した水準の関税が導入されれば、米国の部品製造業は雇用を減らし、価格上昇分を消費者に転嫁せざるを得なくなると主張した。さらに、同協会のスティーブ・ハンズシュウ会長兼CEOは、商務省が提案する製品除外のプロセスが設定される場合でも、個別企業にそれらの申請の負担を担わせるべきではないと述べている。

そのほか、ビール協会も「年間生産量の約半分のビールがアルミニウム製の缶に詰められている」として、商務省が提案した輸入制限などの措置を大統領が導入した場合は、アルミニウムの価格は大幅に上昇し、ビール業界の雇用が脅かされると主張した。同協会のジム・マックグレービー会長兼CEOは1次アルミニウム(Primary Aluminum)や缶シートが輸入制限措置の対象から除外されなかったことに落胆したと述べている。

中国の大豆市場が閉ざされると警戒

米国大豆協会は2月16日の声明で、米国が輸入制限措置を導入すれば、中国政府による対抗措置により同国市場が閉ざされるとの強い警戒感を示している。2017年の大豆の輸出額をみると、中国への輸出額は総額の6割弱を占めている。同協会は、仮に中国政府が大豆を報復対象として対抗措置を導入することになれば、米国のライバルであるブラジルやアルゼンチンに中国市場が奪われるとしている。

「フィナンシャル・タイムズ」紙(2月18日)は「(現在、)中国の食品価格の上昇率は低くなっており、農産物が同国による報復措置の対象となる可能性が高い」との専門家の見方を紹介し、EUも対抗措置を検討しているとも報じている。

なお、乳製品や生肉など米国の主要農業18団体は、2017年2月11日にロス商務長官に対して書簡を発出し、1962年通商拡大法232条調査に基づく安全保障を理由とした輸入制限措置を政府が発動すれば、他国も農産品など米国の輸出品に対する同様の措置を設ける可能性が高いとの懸念を示している。

各州や米国領の農務長官などで構成される州農業省全国協会(NASDA)は2月20日、「関税の導入案とそれによる農業界への悪影響について引き続き監視を続ける」との声明を出した。

(注1)米国、カナダ、カリブ諸島に120万人の組合員を持つ労働組合。組合員は鉄鋼関係に限らず、全ての産業の労働者を対象にしている。

(注2)商務省が2017年6月22日に開催した公聴会におけるアルコアの証言PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)より。

(注3)ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)の3社。

(鈴木敦)

(米国)

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