難民急増で滞在・労働許可の承認が大幅に遅延-現地認証企業経由の申請で短縮が可能なケースも-

(スウェーデン)

ロンドン発

2018年02月26日

スウェーデンではここ数年、大量の難民流入による滞在申請手続きが増加したことから、移民局が業務をこなし切れず、一般滞在許可や労働許可の審査・承認が大きく滞っている。申請から承認までに1年以上かかることもあるため、日本企業の活動への影響も少なくない。こうした中、多国籍企業グループに勤務する、EU域外の第三国の国籍を有する経営管理職などのEU域内の拠点への転勤をスムーズにすることに資する「企業内転勤指令」に基づく新規則が3月1日に施行されることとなった。移民局は現在、オンラインによる申請システムを構築中だ。

新規申請に12~19カ月、延長手続きには17~19カ月を要する

スウェーデンでの外国人の滞在許可、労働許可を新規に申請する場合には、本人の入国前に移民局のウェブサイトを通じて申請し、承認を得ることになっている。しかしここ数年、大量の難民流入による申請増加に伴い激増した業務を移民局がこなし切れず、手続きの大幅な遅延が生じている。2018年1月時点で移民局は、ウェブサイト上で申請から許可まで新規申請に12~19カ月、延長手続きには17~19カ月を要するとしている。

移民局は、基本的には種別を問わず申請順に審査を行っているため、難民流入で申請が増えたことが、ビザ延長手続きにも影響を及ぼしている。現地で活動している駐在員のビザが切れてしまい、EUのシェンゲン域外から再入国する際にトラブルとなるケースもみられる。企業活動にも大きな支障が出ていることから、現地日系企業の団体である日本商工会(JBC)の総会でも毎回議題に上がり、日本大使館はスウェーデン移民局に改善の申し入れをしている。

「企業内転勤」に関する新規則が3月に施行

こうした中、3月1日にEUの「企業内転勤(Intra-corporate transfer:ICT)指令」に基づく新規則が施行されることとなった。同指令は、多国籍企業グループに勤務する、EU域外の第三国の国籍を有する経営管理職と専門家、研修生のEU域内の拠点への転勤をスムーズにするため、労働・滞在許可の枠組みを定めたものだ。同指令がスウェーデン法として実施されることにより、日本を含むEU域外の第三国の国籍保持者が他のEU加盟国からスウェーデンのグループ会社へ転勤することが容易になると期待されるものの、今後、運用面で当局がどのように対応していくかには注意が必要だ。移民局は目下、オンラインによる申請システムを構築しているところだ。

移民局と契約を結ぶ代理業者利用でも多少スムーズに

当面の間、少しでも早く労働許可を取得するためにはどのような方法があるのか調べてみたところ、現地の雇用主となるスウェーデン企業が、事前に移民局から認証を受ける方法があることが分かった。認証を受けた雇用主が被雇用者の労働許可申請をした場合、新規申請は10日以内、延長申請は20日以内に労働許可の可否が決定されるという。

代理業者の1つであるビンゲ法律事務所のパートナー弁護士であるフレドリック・ダール氏によると、新規および延長の就労ビザ申請の手続き代行を行う際、優先的に審査を受けることができるという契約を移民局と締結している代理業者もあり、同社もそのうちの1社。同社の契約をみると、就労ビザ申請者の勤務先企業が経営状況の安定性に関する一定要件を満たしていることが優先審査の手続き代行の条件で、その企業が団体協約(注)を有する場合、新規申請は10営業日以内、延長申請は20営業日以内に認可が決定される。対象企業が団体協約を有さない、または何らかの理由で労働組合による意見書が添付できない場合はウェブ経由での申請を受領した後、約60営業日内に認可が決定されるとなっている。代理申請であっても、就労許可発給の条件は変わらない。また、就労許可発行の申請に当たって当該企業は欧州経済領域(EEA)およびスイスで10日以上人員募集の広告を出し、関連労働組合による雇用条件に関する意見書を添えなければならない。

(注)スウェーデンの大半の企業は、全国レベルの雇用者組織と全国レベルの産業別組合組織がそれぞれ団体で交渉を行い賃金や労働条件を決めており、団体協約と呼ばれる。

(篠崎美佐、岩井晴美)

(スウェーデン)

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