ワシントン州など18州で最低賃金を引き上げ-税制改革受け企業レベルでも賃上げや一時金支給の動き-

(米国)

ニューヨーク発

2018年01月30日

米国の18州で2018年1月1日から最低賃金(時給)が引き上げられた。州別ではワシントン州が11ドル50セントと最も高くなった。ただし、市レベルではニューヨーク市が13ドルに引き上げられたほか、ワシントン州やカリフォニア州の一部の市では15ドル以上のところも出ている。一方、税制改革による減税を受け、企業レベルでの賃上げや一時金支給の動きもみられる。

ニューヨーク市は最低時給を13ドルに引き上げ

米国18州で、2018年1月1日から1時間当たりの最低賃金が4セント~1ドルの幅で引き上げられた(表1参照、注1)。引き上げは州法によりあらかじめ計画されていたものと、物価上昇を一定の計算式で反映させたものとがある。引き上げ額が大きかったのは、メーン州(1ドル)、コロラド州(90セント)、ハワイ州(85セント)など。米国労働者の平均時給は26ドル63セント(2017年12月、労働統計局)で各州の最低時給を大きく超えているものの、労働政策などを専門とするシンクタンクの経済政策研究所は、今回の引き上げにより約450万人の労働者が恩恵を受けると指摘している。

表1 最低賃金が引き上げられた18州(単位:ドル)
州名 最低賃金(時給)
(2018年1月1日時点)
引き上げ額
ワシントン 11.50 0.50
カリフォルニア 11.00 0.50
バーモント 10.50 0.50
アリゾナ 10.50 0.50
ニューヨーク 10.40 0.70
コロラド 10.20 0.90
ロードアイランド 10.10 0.50
ハワイ 10.10 0.85
メーン 10.00 1.00
アラスカ 9.84 0.04
ミネソタ 9.65 0.15
ミシガン 9.25 0.35
サウスダコタ 8.85 0.20
ニュージャージー 8.60 0.16
モンタナ 8.30 0.15
オハイオ 8.30 0.15
フロリダ 8.25 0.15
ミズーリ 7.85 0.15

(出所)米国労働省

今回の引き上げによって、ワシントン州の最低時給が州別では11ドル50セントと最も高くなった(注2)。カリフォルニア州も11ドルに引き上げられ、マサチューセッツ州に並び、州別では2番目に高い州となっている。これに、アリゾナ州とバーモント州の10ドル50セントが続く。

ニューヨーク州も10ドル40セントに引き上げられた。ただし、ニューヨーク市については、州の最低賃金を上回る金額が定められており、13ドルに引き上げられている。さらに、2018年12月31日には15ドルに引き上げられる予定だ。ニューヨーク市内で日本食レストランを展開する経営者は「既にメニュー価格は高くなっているので値上げはしたくないが、15ドルまで引き上げられると、何らかの対応を検討せざる得ない」と話す。

市レベルでは最低時給が15ドルを上回るところも

現在、米国では連邦法による最低賃金は7ドル25セントで、2009年7月から8年以上引き上げられていない。2018年1月1日時点で、連邦法の7ドル25セントを上回る最低賃金を定めている州は29州とワシントン特別区、連邦最低賃金と同額が14州、連邦最低賃金を下回る州が2州、州として最低賃金を定めていない州が5州ある(表2参照)。

表2 各州の最低賃金(2018年1月1日時点)(単位:ドル)
項目 州名 最低賃金(時給)
州最低賃金が連邦最低賃金より高い州(29州+特別区) ワシントン特別区 12.50
ワシントン 11.50
カリフォルニア* 11.00
マサチューセッツ 11.00
アリゾナ 10.50
バーモント 10.50
ニューヨーク*/** 10.40
オレゴン** 10.25
コロラド 10.20
コネティカット 10.10
ハワイ 10.10
ロードアイランド 10.10
メーン 10.00
アラスカ 9.84
ミネソタ* 9.65
メリーランド 9.25
ミシガン 9.25
ネブラスカ 9.00
サウスダコタ 8.85
ウエストバージニア 8.75
ニュージャージー 8.60
アーカンソー 8.50
モンタナ 8.30
オハイオ 8.30
デラウェア 8.25
フロリダ 8.25
イリノイ 8.25
ネバダ 8.25
ミズーリ 7.85
ニューメキシコ 7.50
州最低賃金が連邦最低賃金(7.25ドル)と 同じ州(14州) アイオア 7.25
アイダホ 7.25
インディアナ 7.25
カンザス 7.25
ケンタッキー 7.25
ノースカロライナ 7.25
ノースダコタ 7.25
ニューハンプシャー 7.25
オクラホマ 7.25
ペンシルベニア 7.25
テキサス 7.25
ユタ 7.25
バージニア 7.25
ウィスコンシン 7.25
州最低賃金が連邦最低賃金より低い州(2州) ジョージア 5.15
ワイオミング 5.15
州最低賃金を定めていない州(5州) アラバマ
ルイジアナ
ミシシッピ
サウスカロライナ
テネシー

(注)* 企業規模によって異なる。** 都市によって異なる。
(出所)米国労働省

米国では前述のニューヨーク市のように、市や郡レベルで最低賃金を課しているところも多いため、留意が必要だ。例えば、カリフォルニア州のマウンテンビュー市、サニーデール市は、2018年1月1日に最低時給を15ドルに引き上げた。ワシントン州のシアトル市でも、従業員500人以上の企業については、15ドル45セント(ただし、医療給付制度に拠出しない場合、拠出する場合は15ドル)に引き上げられている。さらに、カリフォルニア州のサンフランシスコ市、エマリービル市(7月1日、注3)、バークリー市(10月1日)でも2018年内に最低賃金が15ドルに引き上げられる予定だ。ニューヨーク市に次ぐ第2の経済都市ロサンゼルス市も、7月1日に13ドル25セントに引き上げる。

ウォルマートは新規採用従業員の時給を11ドルに

一方、企業レベルでも賃金を引き上げる動きがみられる。要因として、現在、好調な米国経済を反映し、2017年12月の失業率が4.1%と歴史的な低水準にあり、従業員の確保が難しくなっていることが挙げられる。2017年末に成立した税制改革法によって、減税による収益増が見込まれることから、それを原資に最低賃金の引き上げや一時金支給に踏み切っている。

小売り世界最大手のウォルマートは1月11日、新規採用従業員の時給を11ドルに引き上げると発表し、2月17日から適用する。同時に、勤続20年以上の従業員には1人当たり1,000ドルの一時金を支給する。賃金アップにより3億ドル、一時金支給で4億ドルの支出増を見込んでいる。

そのほか、今回の税制改革を受け、金融大手ウェルファーゴが最低時給を15ドルに引き上げると発表している。また、AT&T、ボーイング、アップル、ウォルト・ディズニー、スターバックス、ホームデポなども、賃上げや一時金支給を発表している。

(注1)ニューヨーク州は2017年12月31日に引き上げ。

(注2)なお、首都のワシントン特別区は12ドル50セント。

(注3)エマリービル市の最低賃金は、従業員が56人以上の場合は時給15ドル60セント、55人以下は15ドルに引き上げられる。

(若松勇)

(米国)

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