メイ政権、内閣改造でEU離脱交渉の第2段階に臨む

(英国)

ロンドン発

2018年01月10日

テレーザ・メイ首相は1月8日、内閣改造を実施した。教育相、労働・年金相などの顔ぶれが新しくなったが、財務相や内相、外相などの主要閣僚は留任した。メイ首相は、この改造内閣で移行措置やEUとの将来の関係に関する事前協議など英国のEU離脱(ブレグジット)交渉の第2段階に臨むこととなる。

ナンバー2の役に前法相を任命

改造内閣の顔ぶれは表のとおり。メイ首相はまず、デービッド・リディントン前法相を内閣府相に任命し、議会運営などにおいてナンバー2の役を担わせる。また、リディントン氏の後任の法相にデービッド・ゴーク前労働・年金相を充て、その後任の労働・年金相にはエスター・マクベイ議員を任命した。このほか、教育相としてダミアン・ヒンズ前労働・年金担当相が充てられた。また、ジェームス・ブロークンシャー北アイルランド相が健康上の理由で辞意を表明したことから、カレン・ブラッドリー前デジタル・文化・メディア・スポーツ相がその職を担うこととなった。

表 新内閣の顔ぶれ
役職 氏名
首相・財務第一卿、公務員担当相 テレーザ・メイ
ランカスター公領尚書、内閣府相 デービッド・リディントン
財務相 フィリップ・ハモンド
内相 アンバー・ラッド
外相 ボリス・ジョンソン
EU離脱相 デービッド・デービス
国防相 ガビン・ウィリアムソン
法相、大法官 デービッド・ゴーク
保健・ソーシャルケア相 ジェレミー・ハント
ビジネス・エネルギー・産業戦略相 グレッグ・クラーク
住宅・コミュニティー・地方政府相 サジード・ジャビド
国際通商相 リアム・フォックス
教育相 ダミアン・ヒンズ
環境・食糧・農村地域相 マイケル・ゴーブ
運輸相 クリス・グレイリング
労働・年金相 エスター・マクベイ
上院(貴族院)院内総務・王璽尚書 バロネス・エバンズ・オブ・ボウズ・パーク
スコットランド相 デービッド・マンデル
ウェールズ相 アルン・カーンズ
北アイルランド相 カレン・ブラッドリー
国際開発相 ペニー・モーダント
デジタル・文化・メディア・スポーツ相 マット・ハンコック
無任所相 ブランドン・ルイス
財務相主席担当官 エリザベス・トラス
下院(庶民院)院内総務・枢密院議長 アンドレア・レッドソム
財務政務次官・院内幹事長 ジュリアン・スミス
法務長官 ジェレミー・ライト
エネルギー担当相 クレア・ペリー
移民担当相 カロライン・ノークス

(出所)英国政府

一方で、財務相、内相、外相、国防相、EU離脱相といった主要閣僚は留任し、全体的には小幅な改造にとどまった。

内政・外交ともメイ政権の課題は山積

今回の内閣改造について、「フィナンシャル・タイムズ」紙(電子版1月9日)は、メイ首相の周辺は2017年6月の下院選挙での事実上の敗北などの「負の遺産を振り払うためのタイミングをうかがっていた」とし、メイ首相が自身の苦境を打開する機会を待ち望んでいたとみる。2017年11月に2018年度予算案の発表を終え(2017年12月14日記事参照)、12月にはEU離脱交渉の第1段階として、EU離脱条件などに関しての交渉で具体的な進捗を得るなど(2017年12月14日記事参照)、政権運営に一定の成果を上げることのできた現在の政治環境は、今後EUとの厳しい交渉を控えるメイ首相にとって「またとない平穏」と表現し、このタイミングでメイ首相が内閣改造を決断した背景について説明している。ただし、EU離脱問題をめぐる閣内のバランスや今後の議会運営への配慮から、改造は小幅なものになったと指摘する。メイ首相は新たな内閣で、2018年1月以降に開始されるとみられるEU離脱交渉の第2段階に臨む。EU離脱後の移行措置やその後の通商関係についての困難な交渉を進める上で、閣内の結束が欠かすことができないため、メイ首相の政治運営が注目される。

一方、国内政策についても課題は多い。その1つが社会保障政策や低所得者向けの公共住宅の整備などで、内閣改造に伴い保健相に「ソーシャルケア」、コミュニティー・地方政府相に「住宅」の新たな職責が加わった。しかし、「タイムズ」紙(電子版1月9日)は、このように名称として加えるだけでなく、具体的な計画づくりや法整備が進まないと状況は変わらないと批評する。「一般国民への奉仕」をモットーとして掲げるメイ首相は、厳しい外交交渉の中でも、着実に内政上の成果を上げることが求められている。

(佐藤央樹)

(英国)

ビジネス短信 e68f1fa91db0a553